平成31年3月12日(火) 東京都千代田区の損保会館で行われた「森里川海からはじめる地域づくりシンポジウム ~「地域循環共生圏」の創造に向けて~」に行ってきました。その概略と考えたことをレポートします。
環境省では、2014年に「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトを立ち上げ、「森里川海を豊かに保ち、その恵みを引き出すこと」と「一人一人が、森里川海の恵みを支える社会をつくること」を目標に、森里川海の保全・再生とそこから生み出される恵み(フロー)を生かした地域づくりに取り組んでいます。
今回のシンポジウムでは、2016年から取り組んできた10の実証地域の成果が紹介されるともに、「第五次環境基本計画」で打ち出された『地域循環共生圏』の創造に向けた森里川海からのアプローチについて議論されました
第一部/実証地域における取組成果 ①組織作り・人づくり
第一部は各事例発表の持ち時間が8分ということもあって、消化不足にだった部分もなきにもあらずでしたが、各団体が何を課題とし、それをどう解決しようとして、実際どうであったかが発表され、いい刺激を受けました。各取り組みについては下で紹介する「 森里川海からはじめる地域づくり~地域循環共生圏構築の手引き~ 」でまとめられているそうなので、詳しくはそちらをご覧いただきたいと思います。
前半の5地域は、組織作り、人づくり(この言葉、どうも違和感がありますが)に中心を置いた発表です。
1大阪府吹田市/能勢町
「都市と農山村の経済性を伴った交流を目指して」
吹田市と能勢町という都市と里で栗と木を軸に経済を回そうという取り組みです。
2岡山県高梁川流域
「高梁川の流れと共に生き。豊かな恵みを共有する私たちが、理解し合い協力し合うために」
地元経済界と連携して経済的自立を目指しつつ、地域の生業を作る若者を育成しようという取り組み。大原孫三郎さんからの流れを汲む教育の志を感じる取り組みでした。昨年の災害で足を引っ張られたのが残念。
3石川県珠洲市
「『おらっちゃの宝』による里山里海持続保全の推進」
地域とじっくり話しをしながら、時間をかけて合意形成を図る姿勢がいいなと思いました。
4神奈川県小田原市
大学との共同研究による、人・取組・森里川海をつなげるネットワークの自立的な循環システムの構築を目指す
6つの大学と連携する中でうまれた「わなオーナー制度」は面白い取り組みだと思います。ただ、棚田の時もそうでしたが、こういう活動は必ずどこかでパイがいっぱいになるので、それまでに次の動きを生み出すのが課題かなと思います。
5福岡県宗像市
「成果報告」
世界文化遺産になった宗像からの報告です。「その文化遺産を支えてきた地元漁業が守れなければこの選定も意味がない」という一言が印象的でした。漁業を軸に明確な目標設定、プランの下活動が進められている取り組みだと思います。
第一部 /実証地域における取組成果 ②経済的な仕組み作り
後半の5地域は、資金作りに中心を置いた発表です。
6滋賀県東近江市
地域循環共生圏と東近江三方よし基金
どの発表も勉強になったのですが、私個人としては、ここ東近江の取り組みに一番刺激を受けました。同じ公益財団法人の活動として、近江商人的発想だとこうなるのかと感心することしきり。東近江市さんには文化的景観でも教えられることが多いです。興味のある方は「公益財団法人東近江三方よし基金」のページをご覧下さい。
7 山口県椹野川流域
椹野川河口干潟における持続的な里海再生活動に向けて
県が中心になって行っている事業ですが、寄附付き商品としてアサリを販売したりと、よくありがちな企業との三者協定だけに頼るのではない取り組みに見習うべき点があると思いました。
8佐賀県鹿島市
ラムサールブランド商品と有明海保全
ブランド商品化の取り組みもさることながら、佐賀県民の地元を評価しない県民性をもっと把握してから動けばよかったという反省が面白かったです。
9 徳島県吉野川流域 成果と課題 コウノトリ舞う地域づくり
徳島大学の河口洋一先生のご発表でした。コウノトリの生息環境と、そこで育てられている蓮根のブランド化の取り組み。このあと第3部のパネルディスカッションで、東京農大の竹田先生が、「今回気づいたのは、森里川海の活動は、河口先生のような生物の人を事務局に入れておくと放っておいてもやってくれるから、とてもいいということに気づきました」と仰っていて、河口先生には申し訳ないですが、それは一理あると思いました。
10宮城県南三陸町
森と海の国債認証を活かしたパイロット事業と、ノウハウの共有・伝授を通じた地域の人材の育成
発表者が急遽来られなくなったと言うことで、事務局の方が代理で説明してくれましたが、もう少し詳しく聞きたかったですね。
第二部 /森里川海からはじめる地域づくり~地域循環共生圏構築の手引き~
環境省 自然環境局 自然環境計画課 保全再生調整官 岡野 隆宏さんから、今日の正午に最終決定を見たという手引きについて考え方と今回工夫した点について説明がありました。実際に取り組んでいくための作業シートが充実しているのがウリだそうです。
第三部/ パネルディスカッション
~森里川海を生かした『地域循環共生圏』の創造に向けて~
(コーディネーター) 東京都市大学環境学部 特別教授 涌井 史郎
(パネリスト)
三井住友信託銀行 経営企画部サステナビリティ推進室 審議役 石原 博
NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット 事務局長 鬼沢 良子
公益財団法人日本生態系協会 事務局長 関 健志
東京農業大学農山村支援センター 竹田 純一
環境省 大臣官房審議官 鳥居 敏男 以上、敬称略
パネリストからは、環境省に対してわりと厳しい注文も飛び出していました。今回の手引きも(←この「も」に長く環境省と関わって様々な施策に協力してきた関さんの想いが込められているのでしょう)いいものが出来たとは思うが、活かされなければ意味がない。その前に、みなさん作りましたからやって下さいといういつもの人任せではなくて、環境省がやらなければダメだ、とか。環境循環共生圏というのは要は廃県置藩だ(これは環境省というより総務省でしょうか)、とか。
今回の地域循環共生圏を作るという考え方は、今までの環境保全活動に「社会」と「経済」の視点を加えたものです。その意味では、環境施策といえば理念先行で「そんなこと言ったって現実は・・・」という従来の考え方からは一歩進められたものと言えると思います。
ただ、その一方で、最後のまとめがそうでしたけれども、「われわれ日本人だけが唯一自然との折り合いを付けた持続可能な社会を築いてきた国民だ」とか、「それをもっと世界にアピールし、また現在にその知恵を活かすべきだ」というような話しの持っていき方には疑問を感じています。
明治維新以降に江戸時代がひどい時代だったとされた、それへの反動もあるのは分かりますが、江戸を手放しに美化して、理想的な循環社会だったとする風潮には注意しなければなりません。「歴史」がそれを振り返る時点のパラダイムに影響されるのはやむを得ないとしても、一次資料を飛び越しての議論はやっぱり危険です。江戸時代のものを読めば分かるように、江戸の人たちは当時の条件の中でやむを得ずそうやって暮らしてたわけで、仮に当時使い捨てできる物資が豊富にあったら喜んでそれを使ったでしょう。また、日本人だけが唯一とよく言いますが、文化人類学の成果を学べば他にも周囲の環境と折り合いを付けて暮らしてきた人たちは幾らでもいるわけで、それも違う。アクションを起こすのに気持ちの盛り上がりは必要でしょうが、誤った出発点からは誤った道筋しか出来ないでしょう。
江戸に倣って地域循環共生圏でバイオマスによるエネルギー循環をというような話も出ていましたが、これは今世に喧伝される移住推進による人口減少問題対策と構造が一緒です。地域単位で考えれば人口減少を多少は遅らせることが可能かもしれませんが、結局はパイの取り合いなので勝者敗者が出来るし、国全体でみれば減ることに変わりはない。だから全体としての解決策にはならない。バイオマスの活用も同じで、現代社会が必要とするエネルギーを国内のバイオマスエネルギーだけでまかなうことは不可能です。1人あたりのエネルギー使用量が現代の1/40程度、人口も1/3以下の3000万人、つまり単純計算で必要エネルギーが現代の1/120以下と推定される江戸時代ですら、森林資源をエネルギーとして社会を成り立たせるのはいっぱいいっぱいだった。破綻はしていなかったけれども余裕はありませんでした。それが証拠に当時の山ははげ山が多かった。他の再生可能エネルギーを利用しても、現代人の今の生活を支えるのは無理です。
ではどうするか。そこを考える必要がある。
これについてはまたいずれ書きたいと思います。今回は長くなったのでここまで。