四万十町役場東庁舎で行われた風力発電についての町民勉強会の内容についてレポートします。講師は 市川守弘弁護士 、日本各地の環境裁判に携わっている方で、そのお立場からのご講演でした。
なお、本レポートは講演会で話された内容を財団事務局長神田がまとめたものであり、理解不足、聞き違い等もあるかもしれませんし、市川弁護士のチェックをいただいたものでもありません。また、裏もまだ完全には取れていませんのでどこまでが現象・事実なのか書いている自分自身はっきりとはしていません。その点をお含み置きの上、ご興味の生じた点についてはご自身で調べてみるスタンスでお読みください。ではでは。
「なぜ再生エネルギーである風力発電に反対するのか。」という世論があるが、最近の風力発電は 最新型原発に等しい発電量を誇る。それだけ大きなエネルギーを生み出すものが周囲の環境になんの影響も及ぼさないのか未検証だ。四万十町の発電規模は3000kw×49基、国内最大規模といっているが、薩摩川内や石狩、襟裳にくらべたらどちらかといえば中規模(※神田注:ちなみに、全国の自然エネルギー施設が一覧できるサイトがあります。「エレクトリカル・ジャパン」)。しかし、この3000を5000にすればいつでも大規模に出来る。これが今回の計画に対する懸念の一つ(神田注:ORIXにこの点について確認したところ、技術面、コスト面からいって陸上風力では4000kwが限界で、5000kwに変えてしまうというのは現実的にあり得ないとのことです)。
懸念の二つ目は、オリックスに風力事業の実績がないこと。果たしてうまくいくのか。(※神田注:オリックスのサイトを見ると、「 秋田県秋田市の「秋田新屋ウィンドファーム」(最大出力8.7MW)に出資しています。 」とありますが、ここの事業主体自体はコスモエコパワー株式会社であるのでそうおっしゃったのだと思います。 ORIXにこの点について確認したところ、海外での事業実績はあるそうです。)
三つめは、どこでもそうだが、開発地が過疎地であるということ。都会のために地方が犠牲になるという構造になっている。四電は2割弱を圏外売電している。(神田注:年により違うのかもしれませんが、2019年1月30日付 「四国電力の概要と現況」によると、総販売電力量 29,971 百万 kWh、うち他社販売等 4,851 百万 kWhですから約6分の1、15%程度。)つまり四国の電力は足りているということ。国はリニアという莫大なエネルギーを喰う乗り物を造ろうとしているが、そのために地方を開発しているようなものだ。(神田注:リニアの消費電力については推進派、反対派それぞれの立場から試算されていて、正直よく分かりません。推進派、反対派双方のリンクを併記しますのでご一読いただければと思います。・JR東海 リニア中央新幹線 ・エネルギー問題としてのリニア新幹線 阿部修治 )
一方で、風力発電そのものについての問題点もある。一つ目は、低周波。周波数100Hz以下を低周波、20Hz以下を超低周波といい(※神田注: 音の場合は100Hz以下の振動数をもつ波をいう.電磁気学では,一般に数十Hz~数十kHzの周波数領域の波をいうが,厳密には定義されていない.また,対象としている周波数に対しての相対的な表現として使われることもある.『 旺文社 物理事典』)、人間の耳には聞こえないが、これを浴び続けると頭痛、めまい、吐き気を訴えたり、不眠に陥ったりする人がいる。しかしこれが皆に起きるわけではなく因果関係がはっきりしないのと、現代医学では両者の影響関係のメカニズムが未解明なので、結局個人の感覚の問題にされてしまう。国は「人間の耳には聞こえないから人体への影響はない」としているが、果たしてそう言いきれるのか。一説には、脳内のリンパに直接響いているのでは(※神田注 たとえば、「 How Does Wind Turbine Noise Affect People? 」)という。
風車の被害の恐ろしいところは、このご時世にネットで調べてもほとんど出てこないことだ。ネット上にないものは存在しないと考えてしまいがちだが、そうではない。田舎の過疎高齢化の地域で起きていることはネット社会には出てこない。体調の悪さを訴えても相手にしてもらえず、風車のせいだと主張すると次第に地域から浮いてしまう。医者に診断書を書いてもらおうとしても、医者は風車と体調不良を結びつけた診断書は書いてくれない。企業に詰められたときに医者としても証明できないからだ。結果、因果関係を自腹で調査・証明しようと試みるも、最終的に立ち行かなくなって、その土地から出ていける人は引っ越してしまう。こうなってから、仕切り直して企業を訴える人はまずいない。もう心身ともに憔悴しきっているから。現実に症状が出る人がいても、すべてはなかったことになる仕組みになっている。これはかつての水俣と同じで、どこかの疫学と連携して証拠を固めていかないと健康被害では太刀打ちできない。
最近、ドイツのZDFという放送局が風車による低周波の人体への影響についての番組を作った。この問題がよく分かるので、ぜひ一度見て欲しい。(日本語字幕あり)
風力発電そのものについての問題点 二つ目は、尾根筋に作るということ。もともと、尾根や谷筋は森林の公益的機能保全のために在来植生を残している。本来保護されるべき保護樹帯が、再生エネルギーのためなら切り倒してもOKという風潮になっている。しかし、ここは守らねばならないから保護しているのであって、尾根筋の木を切り倒したら当然崩壊→土石流という自然災害の恐れがある。保安林の解除についても、初めに土地の形質の変更許可を出し、着工、完成ののち、もう森林じゃないから解除、というおかしなことが起こる。(※神田注:この部分、須崎林業事務所の三好次長に確認したところ、「保安林解除なしの工事はあり得ない(罰則規定あり)」「調査用の風車については保安林機能に影響がなければ許可が出されるはずで、それは森林法34条に沿って行われるはずだ。」と教えていただきました。ただ、今回の風力発電に係る風況調査が34条の一~九のどれに当たるのか、私にはよくわかりません。)
第三十四条 保安林においては、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければ、立木を伐採してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 一 法令又はこれに基づく処分により伐採の義務のある者がその履行として伐採する場合 二 次条第一項に規定する択伐による立木の伐採をする場合 三 第三十四条の三第一項に規定する間伐のための立木の伐採をする場合 四 第三十九条の四第一項の規定により地域森林計画に定められている森林施業の方法及び時期に関する事項に従つて立木の伐採をする場合 五 森林所有者等が第四十九条第一項の許可を受けて伐採する場合 六 第百八十八条第三項の規定に基づいて伐採する場合 七 火災、風水害その他の非常災害に際し緊急の用に供する必要がある場合 八 除伐する場合 九 その他農林水産省令で定める場合 2 保安林においては、都道府県知事の許可を受けなければ、立竹を伐採し、立木を損傷し、家畜を放牧し、下草、落葉若しくは落枝を採取し、又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をしてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 一 法令又はこれに基づく処分によりこれらの行為をする義務のある者がその履行としてする場合 二 森林所有者等が第四十九条第一項の許可を受けてする場合 三 第百八十八条第三項の規定に基づいてする場合 四 火災、風水害その他の非常災害に際し緊急の用に供する必要がある場合 五 軽易な行為であつて農林水産省令で定めるものをする場合 六 その他農林水産省令で定める場合 3 都道府県知事は、第一項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る伐採の方法が当該保安林に係る指定施業要件に適合するものであり、かつ、その申請(当該保安林に係る指定施業要件を定めるについて同一の単位とされている保安林又はその集団の立木について当該申請が二以上あるときは、これらの申請のすべて)につき同項の許可をするとしてもこれにより当該指定施業要件を定めるについて同一の単位とされている保安林又はその集団に係る立木の伐採が当該指定施業要件に定める伐採の限度を超えることとならないと認められるときは、これを許可しなければならない。 4 都道府県知事は、第一項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る伐採の方法が当該保安林に係る指定施業要件に適合するものであり、かつ、その申請(当該保安林に係る指定施業要件を定めるについて同一の単位とされている保安林又はその集団の立木について当該申請が二以上あるときは、これらの申請のすべて)につき同項の許可をするとすればこれにより当該指定施業要件を定めるについて同一の単位とされている保安林又はその集団に係る立木の伐採が当該指定施業要件に定める伐採の限度を超えることとなるが、その一部について同項の許可をするとすれば当該伐採の限度を超えることとならないと認められるときは、政令で定める基準に従い、当該伐採の限度まで、その申請に係る伐採の面積又は数量を縮減して、これを許可しなければならない。 5 都道府県知事は、第二項の許可の申請があつた場合には、その申請に係る行為がその保安林の指定の目的の達成に支障を及ぼすと認められる場合を除き、これを許可しなければならない。 6 第一項又は第二項の許可には、条件を付することができる。 7 前項の条件は、当該保安林の指定の目的を達成するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。 8 第一項の許可を受けた者は、当該許可に係る立木を伐採したときは、農林水産省令で定める手続に従い、その旨を、都道府県知事に届け出るとともに、その者が当該森林に係る森林所有者でないときは、当該森林所有者に通知しなければならない。 9 第一項第七号及び第二項第四号に掲げる場合に該当して当該行為をした者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事に届出書を提出しなければならない。 10 都道府県知事は、第八項又は前項の規定により立木を伐採した旨の届出があつた場合(同項の規定による届出にあつては、第一項第七号に係るものに限る。)には、農林水産省令で定めるところにより、当該立木の所在地の属する市町村の長にその旨を通知しなければならない。ただし、当該伐採が、第十一条第五項の認定に係る森林経営計画(その変更につき第十二条第三項において読み替えて準用する第十一条第五項の規定による認定があつたときは、その変更後のもの)において定められているものである場合は、この限りでない。
よく、「 本当に環境に影響があるなら環境アセスで止まるはずだ 」という人がいるが、日本のアセスはザル法で、作るための調査でしかない。秋田の成瀬ダムの例を見ればいい。完全自然林、世界遺産白神山地とほぼ同じ環境で、クマゲラもいる。地元はできっこないと高をくくっていたが、立派にできてしまった。アセスに重きを置くとドツボにはまる。『 enviromental justice 』 ーすべてのアメリカ国民は等しく快適な環境を享受する権利があるーという考え方が1960年代からあるアメリカとは大違いだ。
どうすれば風車を止められるか。まず第一に今日のような学習会をすること。現状をきちんと知ること。次に署名。民意を行政に届けること。そして、市、町へ申し入れ書を送ること。本当に住民の声を聴いてくれる首長ならば動いてくれる。
他にも細かい点はいろいろありましたが、大筋では上記のようなお話だったと思います。
市川弁護士の講演前に、愛媛風車ネットワークの黒田さんから、愛媛県の現状について報告がありました。印象的だったのが、「環境被害や健康被害がある、ないももちろん大切だが、それよりも実際に被害が大きいのは、人がいなくなることだ。Iターン、Uターンの人は風車がある地域にやってきて住むことはまずない。」という言葉でした。これは地元でどう話し合っても、どれだけ理解をしても防げないかもしれない。あくまで冷静に、客観的な理解が必要だと思いますが、それだけでは解決できない問題もあることが分かりました。
最後に
四万十川財団の仕事は流域の人、四万十川を愛する人が四万十川にかかわる問題を考え、議論する場であることだと考えています。したがって、推進、反対のどちらか一方の立場に肩入れするということは職務上できません。事業者のORIXさんとも話をしていますし、反対の立場で活動される方にも協力します。私たちにできることは、皆さんが判断する材料をできる限り提供することです。従いまして、本ブログを含めて四万十川財団HP上の風力発電関連の 内容について、風力発電を推進する立場、反対する立場、どちらの立場からの利用もご遠慮いただきますようお願いいたします。
四万十川のこれからと自分たちの暮らしに関わることです。 ぜひご意見、情報をお寄せください。