いつも清流通信をご愛読いただきありがとうございます。おかげさまで、清流通信は今回の配信で300章を迎えました! 1997年7月に高知県四万十川対策室が配信を開始、四万十川財団が引き継いだ後も100章、200章と途切れることなく配信を続け、本日300章となりました。ここまで継続してこられたのは、読者の皆様をはじめ、取材へのご協力など、これまで本当にたくさんの方々に支えていただいたおかげであると心より感謝いたしております。これからも清流通信を通して四万十のリアルをお届けしてまいりますので、今後とも清流通信をどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、記念すべき300章ということで、今回は四万十川財団に深く関わりのある方にご協力いただきました。元高知県知事の橋本大二郎さんです!取材にご協力いただきありがとうございます!!現在の四万十川保全の礎を築いた橋本さんは財団の初代理事長であり、まさに生みの親!そんな、四万十川にとっても財団にとっても大切な方に今回リモートでお話を伺いました!当時の話や四万十川への思いについてたっぷりお話しいただきましたのでご紹介いたします。

本日はご多用のなかお時間をいただき本当にありがとうございます。早速ですが、おかげさまで財団設立から20年以上が経ちました。かなり昔のことにはなりますが、財団設立当初の思い出などありましたら教えてください。

 正直に申し上げますと、20年も前のことですので財団を設立した経緯ははっきり覚えていないのですが(笑)、はっきり覚えていないほど前にできた財団が続いてきたということが素晴らしいと思います。四万十川にはいろいろな思いがありますが、東京にいた頃から四万十川への憧れはありました。ところが知事になった当初、実際に四万十川に行ってみると、護岸整備が進み、景観として人の手が入り過ぎている印象を抱きました。しかしその一方で、日本最後の清流というイメージを、イメージだけでなく清流としてしっかり保全していくことで地域のブランドや観光につなげていく必要があると考えました。そこで四万十川保全のための取り組みを重ねていく中で四万十川対策室を設置し、対策室を中心に施策を整備し四万十川条例を作っていきました。そんな一連の流れの中で、継続的な情報発信や地域との連携を図っていくための組織が必要ではないかと考え、四万十川財団の設立に至りました。今にしてみれば、一連の流れの中で財団の設立は自然の流れであったのだと思いますね。

ありがとうございます。今後も地域の方々のご協力もいただきながら四万十川の保全に尽力していきたいと強く思いました。さて、2つ目の質問ですが、橋本さんは知事当時四万十川の価値はどんなところにあると感じていらっしゃいましたか。

 四万十川は見た目の美しさとしての清流、水質としての清流もありますが、そのような清流は全国どもにでもあるわけで、なおかつ人の暮らしがある、川漁師や川沿いで農業を営む方、流域で暮らす方々、そんなさまざまな生活の営みがある中で清流を保っていることが素晴らしいと、これが四万十川の価値だと考えています。だからこそ、知事当時、家地川ダムの水利権更新が流域で大きな問題となりましたが、家地川のことが流域規模でそれだけ問題になるのも、四万十という川が大きな川ではありながら、ダムによって川の形や水質が変えられずに残っていて、その周りに人々の暮らしがある、そこが大きな価値だと感じます。ですから、四万十川を観光資源としてだけではなく、様々な意味で県として守っていく必要があると感じていましたし、また名前として発信力のある四万十川で、川を中心にした取り組みが進めば県内の河川にも取り組みが広がっていくのではないかと考えました。

 当時、四万十川は人の手が入っている印象があったと先ほどもお話しししましたが、道路整備も進むなかで、利便性と環境保全との折り合いをどのようにつけていくのかが課題としてありました。利便性が向上しても景観が台無しになり魅力がなくなってしまってはいけないと、そのような思いから道路拡幅の際の護岸整備の方法を国交省と検討したり、木の香る道づくり事業など、景観との調和を意識した道路整備にも取り組んでいきました。そんななかで、地域の方々にも入っていただきながら、資金を持った運動母体を作る必要があると考えたことが財団設立につながったのではないかと思います。

ありがとうございます。お話にあった木の香る道づくり事業は今でも続いておりますし、四万十川条例をはじめ、当時橋本さんが始めた取り組みが今の四万十川保全の地盤になっています。ご尽力いただき本当にありがとうございました。さて、今までの質問と少し雰囲気を変えて、ラフなお話になりますが、四万十川で遊んだ思い出などありましたら教えてください。

 一番印象深いのは、江川崎からカヌーで下ったことですね。妻も含め4人2組で下っていたんですが、私が乗っているカヌーが途中で転覆してしまい、川岸で服が乾くのを待っていたという記憶があります。また、民宿せんばに宿泊した際、ちょうど台風が直撃したときでして、お風呂に入りながら沈下した口屋内沈下橋を見たことは四万十ならではの体験でしたね。知事当時、川登小学校の体育館が浸水して視察に行ったこともありましたが、こんなところにまで水が来たのかと、四万十川は一気に増水しますから、自然の力というか四万十川の水の流れ方はすごいなと感じましたね。暮らしている方にとっては大変な話だと思いますが、自然との付き合い方が構築できているというのは、四万十川ならではであり、ある意味大切な部分なのではないかと思います。

昨今豪雨災害などが頻発するようになり、行政側の災害対策への批判なども見られるようになってきましたが、四万十の場合は水害など災害への対応を人任せにしないというか、災害への対策が文化として出来ているという感じがありますよね。

 そうですね。昔は日本どこでもその意識はあったかと思いますが、防災への意識や対策が進むにつれて、ハード面での防災整備が強く求められるようになり、それがうまく機能しないと「人災」だと批判され、行政側もそれを避けるために自然との壁をさらに高くしていく、そのような流れがあると思いますがそこをどう折り合いをつけるか。自然というものは確かに脅威になることもあるけれども、普段は穏やかでさまざまな恵みをもたらしてくれるものでもあり、その普通の川と楽しく暮らしていく、そこを大切にしようと思うのかが大切であり、四万十には川とともに生きていくという文化が今も根強く残っているということは、大きな価値の一つだと思います。

 当時数多くの取り組みを行いました。なかにはうまく根付かなかったものもあるとはいえ、続くかどうかは別として、いろんなことに取り組んでいくことこそが、次につながると考えていました。平成15年から始まった森林環境税も、今では全国各地で取り入れられていますが、これは川と森の関係をどう考えるかというところから出てきたもので、住民の方々とも協議しながら作ったものです。四万十川財団を含め、様々な取り組みを行い、長く続いているものがあるということは嬉しく感じます。

ここまでは過去の話について伺ってきましたが、次は現在についてお聞きしたいと思います。知事当時の四万十と比べて、当時の課題で現在も課題として残っているものもありますが、例えば林業では自伐型林業の推進、地域に目を向けると外から来たたくさんの若い人たちが地域を盛り上げてくれていることなど新しい動きも出ています。今の四万十川について何か思うこと、期待することなどありますか。

 モノの流れには循環があります。例えば林業でも、今海外で木材価格が上昇し、その影響で国内でも高騰してきている。また木材の使い方も多様化し価値が上がってきているという非常に良い波が来ているなかで、自伐型林業などがきちんと地域で根付いていくようにサポートしていくことが大切ではないかと思います。また、大きな流れの中でという話で言うと、例えばアユの漁獲量の減少について、知事時代にある研究者から温暖化などの原因から水温が上昇し、アユの産卵時期が従来の禁漁期間からズレているのではないかという話を聞いたことがありました。このように、大きな流れの中で生じてくる変化に対してそれまでの対応とは全く違う対応を考えていく、またそれに気づき、例えば四万十川財団のようなところが発信していくということも必要になっているのではないかと感じています。

 また川漁師の話で言うと、川漁師のお孫さんがウナギの取り方について生き生きと話してくれたことがとても印象に残っているのですが、やっぱりそういうのが素敵だなと、教育という面でも子どもが育っていく環境として必要ではないかと感じました。それを多くの人が体験できる環境にあるというのが四万十のよさの一つであり、コロナ禍で地方への移住者が増えているというニュースも近頃よく見ますが、今回のコロナのような時代の波は今後も続いていくであろうことを考えると、四万十は十分移住者が増えていく環境があると、良い波が来ているのではないかと考えます。そこに今までの取り組みがうまくかみ合っていくのではないかと期待をしているところです。

 林業は特にうまくやればかなり長続きするもので、底力のあるものだと思います。高知県は総面積の84%が森林という全国1位の森林率を誇る県ですので、その森林をうまく活用して持続的な林業ができれば、大金持ちになることはなくても普通に家族を養えるだけのお金は稼げる産業に充分なりうるのではないかと思います。

実は財団としても来年度森林事業を立ち上げるよう計画しています。今のお話を受けて事業化への勇気をいただきましたので、実現に向けて頑張って取り組みたいと思います。さて、最後の質問になりますが、コロナが明けて今後四万十川に来る機会があれば、どんなことをしてみたいですか。

 わたしも年齢が後期高齢者に近づいていますので、昔のようにカヌーに乗ったりはできないかなとは思いますが、流れのない場所でカヌーなど乗れたら楽しいだろうと思います。沈下橋で川を眺めるだけでも都会では得難い体験で、初めて沈下橋を歩いたときには、川を見ながら歩いていると流れにつられて自然と曲がって歩いてしまうという体験をしました。そういう自然を通して学ぶ体験をしてみたいですね。また、四万十ドラマで地栗を使ったお菓子を作っているところを見たりしながら食べて楽しんでみたいなと思います。

…取材を終えて…
 今回は突然のお願いだったのにもかかわらず、快く取材にご協力いただきました。橋本様にはご多用のなかお時間をいただき心より感謝申し上げます。貴重な知事時代のお話や四万十川への思いをたくさんお話しいただき、終始身の引き締まる思いで取材をさせていただきました。森林機能の低下、河川環境劣化など様々な課題があるなか、その課題に正面から向き合ってきた姿勢は見習いたいと感じましたし、今回の取材を受けて、四万十川保全の長い取り組みの中で、今も変わらずに活動を続けていることに誇りを持ち、橋本さんが守りたいと思った四万十川を後世に繋いでいけるよう役割を果たしていかなければいけないと強く感じました。

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