*このコラムは清流通信301章と合わせてご覧ください。
四万十市で自伐林業を営む宮崎聖さんの林業について取材してきた。
1 自伐林業と自伐型林業
自伐林業は、自分で山を持ち、山を育てながら林業をしていく。材の生産が森林の成長量(面積当たりでどれだけ成長したか)を超えない全体の2割程度までに抑え、材積(山全体の木材体積)を維持し、継続して木材を出せる仕組みを作る。この方法は山林の機能を保持するので、周辺の自然環境への負荷が少ない。
自伐林業と自伐型林業の違いは明確に定義されていない。基本的な考え方は同じだが、「自伐型林業」は、山林を保有する自伐林業とは異なり、保有や山林規模にかかわらず自らが森林経営管理を行うことが多い(令和2年林野庁林政審議会の「林業経営と林業構造の展望」参照)。高知県には高知県小規模林業推進協議会という組織があり、自伐型林業をサポートしている。低コストで参入しやすく、若い人や移住者にも取り組み始める人がいる。 しかし、現在、若い人の参入が多い中で、事業を継続できる人がどれくらいいるのか把握できない現状もある。
宮崎さんは、「林業には様々な補助金があるため、補助金を最大限活用すれば一応生活に困ることはないが、実際に自ら経営をするとなると、良い山から良い木を出していかないと十分な収入は得られない。山主は、よりたくさんお金を返し良い山に育ててくれる林家に委託するので、技術や知識がなければ良い山が持てず、収入が得られず、やることも増え、安全性が確保できない。そうした現実もあるため、 『自伐型林業』は参入しやすい反面、継続が簡単ではない。」と話す。
*自伐型林業については詳しくはこちら(自伐型林業推進協議会)
2 宮崎聖さんの自伐林業
・自伐林業との出会い
宮崎さんは10年前から自伐林業を始めた。有志と森林ボランティア団体「シマントモリモリ団」を結成したことが始まりだった。実際にやってみると林業は非常に危険で、それほど儲かる仕組みでもなく、山主にお金を還すと残りはほとんどない。はじめは補助金をもらったが、山主に還元しなくても1日5000円くらいの収入にしかならなかった。(宮崎さんは、覚悟や責任もなく収入目的だけなら、コンビニのバイトをした方が安全で良いといっている。)そんななか、愛媛県で自伐林業を行う菊池さんのところへ勉強に行き、少しずつ 宮崎さんの認識は変わっていった。現在は収入を得られる方法を実践しながら施業している。
*シマントモリモリ団のyoutube動画(2015年11月)
・宮崎さんの”収入を得る”自伐林業
宮崎さんは、先祖代々受け継いできた山、または育った山を購入し、収入間伐をしている。多少、ヒノキやシイタケ用くぬぎを植えているが、ほとんど植林や育林は行わない。作業道は1.5m幅で、毎年数%ずつ、10年で2割程度間伐し、一般的な自伐林業よりもさらに環境負荷とコストの少ない方法をとっている。宮崎さんが、1日に伐る木は2~3本。どの1本を伐れば山全体にどんな影響がおきるのかを考える。1本伐った後の他の木の成長、この1本の木の売価、作業効率などなど。宮崎さんが一番やりがいを感じていることは、伐った後の造材と、委託で間伐整備(自伐型林業)をした場合の山主さんへの還元だ。毎月共販所から発表される木材市況を1本当たりの金額に換算した表を持参し、その場で倒した木が一番高く売れる長さと径を探し、微妙に調整しながら造材する。その造材は非常にシビアで、径がミリ単位違うだけで何千円も損するという。作業の多くをこの時間に使うのだ。山全体を考えた上で、一本の木の伐り時を見極め、その一本の木をいかに高く売るか。それを地道に積み上げる。このやり方で、1日5000円がやっとの状態から、5日間で20本間伐して約17万円、1日当たり約3万円を超える収入になり、確実に成果を上げることができるようになった。最近、技術や経験値も上がり、山主さんには材の売上の5割以上、補助金がある場合は10割、数年で100万円近く還元できている。簡単ではないが、山主さんを第一に、かつ「補助金ありきにならない」、という菊池林業の考え方の実践上に今がある。
・50年で山を育てる
自伐林業では一度にまとまった収入が得にくいため、林業の収入だけに頼ることはできない。そのため、宮崎さんは主業として木工を行い、林業を兼業している。自伐林業は、50年以上の期間で収支を考えていくのが基本だ。一年ではで収入も得られないし山の整備もできない。技術の未熟な初心者がそれを補助金で穴埋めしながら無理にやろうとするので長続きしない。補助金ありきで未熟な施業を続けると山を壊しかねないし、安全性も低い。だから、生活するための”兼業”が必要なのだ。その余裕がないと、良い山や良い木を出す林業はできない。特に宣伝はしていないが、毎年、自伐型林業を始めたい人が何人か宮崎さんのところへ相談にくるようだ。その時は、補助金の特異性や、山を買うことなどをしっかり説明するという。
この技術を次世代に繋ぎたいと考え、自伐林業を志す人に実技講習をすることもある。現在は、宮崎さんのところに見習いとして住み込み働く若い人もいる。2020年10月に大阪からやってきた20代の西村優輝さん。全国を旅しながら面白いことや住み着く場所を探し、四万十にたどり着き、宮崎さんと出会った。今は、宮崎さんの工場と林業の手伝いをしながら修行中だ。この1年で伐倒、造材、作業車を使えるようになり、これから選木と道づくりに挑戦していく。
宮崎さんの林業はしっかりとお金になっているだけでなく、50年以上先を考えた持続的な山の姿を描いている。宮崎さんは、「これが自伐林業に必要な方法で、結果的に山や自然を守っていくことにつながっていると10年の自らの取り組みの中で実感した。これからも自然を守りながら自伐林業をしていきたい。」と話してくれた。
おまけ:軽トラサウナ、はじめました。
昨年、林業×木工でできたのが「軽トラサウナ」。軽トラで移動し、どこでもサウナができる優れものだ!
あるとき、サウナ中に裸のまま水へ飛び込む海外動画を見て興味が沸いた。周りを見回すと、できそうだ・・・と作ってみたら短時間でクオリティの高いサウナが完成。その後、四万十川でサウナをすると想像以上に気持ち良くハマってしまったそうだ。体の調子が良くなって、肌もきれいになったらしい。
林業をしているから、材料が簡単に手に入り、木工をしているから組み立ても簡単にできる。「なるようにしてなった。」と宮崎さんは楽しそうに話してくれた。
寒い冬でもサウナは気持ち良いらしい。四万十川に来ると、あちこちで軽トラサウナを楽しむ宮崎さんに出会えることでしょう。