*このコラムは清流通信301章と合わせてご覧ください。

1 いい山といい川

 四万十川は高知県内5市町を流れている。その市町の森林面積は総面積の87%にもなる。この山々が、雨を貯め、その水が豊富な養分たっぷりの四万十川になっていく。いい山であればいい川になり、いい川になるにはいい山が必要で、山と川は切っても切れない関係だ。今の四万十川の状態を知るには、四万十川流域の森林にも目を向けなければならない。 

2 高知県の林業

 高知県の林業分野については、高知県産業推進計画に基づき「山で若者が働く、全国有数の国産材産地」を目指し、①原木生産の拡大、②木材産業のイノベーション、③木材利用の拡大、④担い手の育成・確保 という4つの大きな柱を据えた取り組みを行っている。

 ①原木生産の拡大では、皆伐と再造林の促進により原木を増産し、労働生産性の向上、施業集約化も強化している。②木材産業のイノベーションでは、高品質な製材品の供給体制の整備、木材の高付加価値化、木質バイオマス発電等による資源の有効活用などを行っている。③木材利用の拡大では、国産木材需要拡大に向けてマーケティングや商品開発、また、販売促進に海外販路の開拓も行っている。④担い手の育成では、林業大学校を中心とした担い手の育成や事業体の経営基盤強化などを行っている。この方針を基にして各事業体に手厚い支援があり、事業体はそれを基に事業を行う仕組みになっている。

3 四万十町森林組合

 次に、四万十川流域5市町の中で一番の森林面積を誇る四万十町森林組合を中心に、今の森林についてみていこう。

・四万十町の森林の状況

 四万十町は、四万十川流域だけでなく県下でも最大規模の森林を持つ。そのほとんどが50~60年生だ。四万十町内の森林の状況は合併前の旧市町によって状況が違うようで、大正と十和地域は比較的に手入れが行き届いた状態だ。特に、ここのヒノキは、油分が強くほのかなピンク色で目が詰まり質が高い。昔から林業従事者が多く、山で仕事をしている人が多かったので、山に対する意識も強く良い状態の山が多いのだろうと考えられている。一方、窪川地域は、大正・十和地域に比べると間伐や手入れが進んでいない。窪川地域は、昔から街の機能が発達しており、農商業への意識が高い傾向がある。林業への関心や従事者が少ない傾向にあったことが原因ではないかと考えられる。

 また、十和・大正地域は地籍調査が終わっているが、窪川地域は40%ほどしか終わっておらず、山の手入れが進まない一因ともなっている。地籍調査が進まないと、山の境界が分からず手が入れられない。なぜ地籍調査が進まないかというと、山主が年老いて、境界まで行くことができず、境界を確定できないのだ。所有者が代替わりしても未登記で現在の所有者の消息が分かない状況の山も多くあり、非常に関係者を悩ませている。

・四万十町森林組合の取り組み

四万十町森林組合

 四万十町森林組合(以下、組合)は平成24年に四万十町内の大正・十和・窪川の3つの組合が合併してできた。正組合員数は2778名、林業作業員125名と県下で最大の人数を抱える森林組合だ。

 苗木づくりと植栽から始まり、下刈りや除伐はもちろん、作業道の敷設をし、間伐と搬出を行う。搬出した木材は、直営の「北ノ川山元貯木場」にて原木販売し、値がつかない材は直営の「大正集成」で集成材に加工している。また、「ヒノキカグ大正集成」として家具作成販売を行っている。木を植え育てるところから売るところまで、非常に手広く様々な取り組みを行っている。

 「ヒノキカグ大正集成」は、合併前の平成元年に大正の組合が設立した。30年前の当時は木がまだ細く、曲がった木は山に放置されることも多かった。将来、成熟した木が山に放置されるのではないかという危機感があり、曲がり木など値段がつかない木に付加価値をつけようと集成材工場を作ったのだった。1997年よりコクヨグループと提携し「結の森」として間伐を行っていたが、その縁で2006年に業務提携を行い、オリジナル家具も作り始めた。それが現在の「ヒノキカグ大正集成」である。

ヒノキカグ大正集成
集成所
集成所

 組合は「北ノ川山元貯木場」を運営し、組合で伐った丸太はそこでセリにかかる。貯木場の入荷は四万十町の大正や十和地域からがほとんどだが、四万十市の大用や片魚からも入荷がある。丸太で値がつかなかったものは大正集成で集成材にしている。しかし、近年は中国やベトナムの集成材が非常に安価で入ってきて、多くの国産集成材が需要を失った。そこで、新たに木材そのままの家具を作ろうという商品開発案もある。今現在都会の需要は自然をそのまま取り入れたい流れがあるようだ。

・四万十町森林組合の課題とこれから

 組合では、早くから市場や製材業、家具作りなど事業の多角化により、付加価値をつけた木材の有効利用を行ってきた。このような独自の事業経営ができる森林組合は全国でも数少ないが、ウッドショック以降は現状を見極める状態が続いている。ウッドショック以前から解決されていない課題も多くある。

地籍調査の遅れ

 1番深刻な課題は、地籍調査の遅延により山の手入れが進まないことだ。高知県の市町村では森林管理システム(森林環境譲与税)の導入を進めているが、それでも対応が難しいのが現状だ。これからも地道な調査を継続していくしかない。

林業従事者不足

 林業従事者不足という課題もある。高知県内では1500人ほど、須崎林業事務所管内では約300人、組合では125人(小規模林業者は除く)。四万十町は中四国で2番目に広い町だが、この人数で町面積の87%を占める森林を管理しているのが現状だ。平均年齢の上昇に加えて新規就労者の未定着により、従事者数は減少の一途をたどっている。今後、山が林齢を重ね伐らなければいけない時に対応できないのではないか、10年後がとても心配だ。

再造林をどう考えるか

 皆伐が進められる中で、再造林をどう考えるかも大きな課題だ。

 高知県によると、県全体の皆伐面積に対し再造林率は3~4割で推移している。保安林で植栽が義務づけられている場合は、100%再造林を行うことになっているが、その他は保有者の自由であり強要できない。再造林とその後の下刈りに係る経費はトータルコストの約7割を占めるため、経費の負担感が大きい。高知県では令和5年度の再造林率70%を目標とし、県内6林業事務所ごとに、増産・再造林推進協議会を設置している。同協議会には再造林推進員を置き、伐採を予定している森林保有者に対し、補助制度の活用やコストを抑える造林・育林手法の提示など、地域ぐるみで再造林をサポートする取り組みを行っている。また、国、県、市町村が再造林費用の補助制度も提示しているが、そもそもの材価が安いと植林の費用を賄いきれず事業体負担になることも多いため、補助対象外経費の負担が重く再造林に踏み出せない現状もあるようだ。

 山の環境だけを考えるなら、皆伐ではなく間伐を繰り返すべきかもしれないが、皆伐後に下草や低木が育つ環境の場合は、放置していても数年後には天然林として自然に山が育つことも多い。条件の悪い環境では、皆伐後に天然林へ還らない場合もあるので、再造林を促進していくべきだが、道が山から遠ければ余計なコストがかかるので、コストに見合った場所から再造林を考えることも必要だ。森林組合として、どのような方向性を以て皆伐と再造林、間伐を行っていくかを模索している。

木材の需要低迷

 需要低迷下における木材販売は昔からの課題だが、ウッドショックによってより方向性が見えづらくなった。高知県では、非住宅分野向けの商品開発や販路開拓、木質バイオマス発電の推進など、木材利用拡大に向けて取り組んできた。これからもその取り組みを継続しつつ、今回の国産材の需要の高まりを将来につなげるため、四万十町内に高幡木材センターの製材工場を新設し、JAS製材等の高品質な製品を安定供給していく試みも行っている。こういった県の取り組みとともに、森林組合の質の高い高級材の需要拡大に期待したい。

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