先日の高知新聞で、県の調査で10年後の集落活動が維持できないと回答した集落が4割以上だったことが報じられた(『高知新聞』2022.2.18日刊)。高齢化の影響で集落を維持していくことが難しくなっている今、県内では10年ほど前から集落活動センターを拠点とした地域活性化の動きがみられ、四万十川流域でもいくつか誕生している。今回は特に集落活動センターの開設に力を入れている梼原町の、越知面地区にある「集落活動センターおちめん」について紹介する。ここではどんな取り組みを行い、地域を元気にしようとしているのか、代表の上田末喜さんにお話を伺った。

上田末喜さん 越知面地区の区長でもある

■梼原町越知面地区

 梼原町の北東部に位置している越知面地区。背後には四国カルストがそびえ、梼原川が流れるのどかな地域だ。地区の中心地である田野々、下本村、上本村、太田戸、井の谷、永野、横貝、上後別当の8つの集落からなり、人口は約500人。農林業で栄え、地区の中心地でもある田野々集落には、平地の少ない梼原町には珍しい広い水田が整備されている。最盛期には約5000人以上がこの地区で暮らしていたと推測され、旧越知面小学校にはたくさんの児童でにぎわっていた写真が残されている。

田野々集落

■集落活動センターとは

 ところで集落活動センターという施設をご存じだろうか。高知県では県内各所で見られるが、全国的にはあまりなじみがないかもしれない。前尾﨑県政からの施策で、中山間地域の多い高知県において少子高齢化に伴う人口減少と地域力の衰退が大きな課題とされるなか、住民が安心して暮らし続けられる集落を維持するための取り組みとして平成24年に始まった。集会所や廃校になった学校施設を拠点とし、地域住民がその地域で暮らし続けるために、住民が協力して特産品の開発や福祉サービス等の活動を行っており、現在県内で60か所以上の集落活動センターがある。梼原町では町全体に整備する方針を掲げ、町内6地区全てに設置されており、集落活動センターおちめんは平成28年に開所した。

■集落活動センターおちめんの取り組み

集落活動センターおちめんは主に6つの事業を行っている。内容は宿泊施設の運営、特産品づくり、営農支援、文化継承、福祉サービスに新聞配達など、どの中山間地域でも抱えているような諸問題に幅広く対応している。

特産品づくりに関わっているのは地域の女性たち。「シルク」というグループで活動しており、桑の葉入りのシフォンケーキや、菊芋チップス、地元食材を使った焼き肉のたれなどの開発の他、カフェの運営(※コロナの影響で今は休止中)に加え、月に1度、集落のお年寄りの家を訪問する活動も行っている。「シルク」は、かつて地域で盛んだった養蚕にちなんでつけた名前で、栽培していた桑を活用して桑の葉入りのシフォンケーキを開発した。シルクが作る特産品は遊友館で購入できるほか、梼原の集落活動センターが運営するオンラインショップ「雲の上ストアー」でも購入できるため、ぜひチェックしてみてほしい。

また、事業の中でも興味深いのがアメゴ養殖事業部会だ。集落活動センターの取り組みとして、アメゴの養殖を行っている。源流域にあたる梼原町では、川魚といえばアユよりもアメゴがメインだ。シーズンになれば町外からたくさんの釣り人が訪れ竿を出す光景が見られる。アメゴは昔から貴重なタンパク源として重宝され、その歴史は江戸時代から続いている。しかし高齢化が進み、養殖業者も減少、地区内の養殖業者も廃業することになった。

「川にいるアメゴはほとんどが養殖ですから、養殖がなくなればアメゴは川から姿を消します。釣り人も訪れなくなりますし、何よりアメゴは梼原の大切な文化ですから、これは守らなければいけないと思いました。そこで、町とも話し合い、集落活動センターでアメゴの養殖事業を行うことにしました。幸いにも養殖をやりたいという若い人が見つかって、今は養殖業者の元で研修中です。それで来年からは本格的に事業を始めるということで準備しています。当面の目標は販路の確保をすることです。」

梼原町に生息するアメゴは四万十川の在来種に近いとも言われており、生態的にも貴重な魚種を守ることにつながり、集落活動センターは集落の維持と発展を目標としていることを改めて感じた。

■遊友館

集落活動センターの大きな柱は遊友館の運営だ。遊友館は平成23年に閉校した旧越知面小学校を活用した宿泊施設で、集落活動センターの拠点でもある。

越知面 遊友館

「集落活動センターの整備が決まった当初、地元住民でワークショップなどを行い、何をすべきかよく話し合ったと聞いています。越知面地区には越知面小学校がありましたが、平成23年に閉校になりました。この施設を活かして何かできないかということで、住民で協議した結果、宿泊施設として活用することにしました。これが遊友館の始まりです。当初は梼原高校の野球部の寮が近くにあったため、食事の提供や、練習試合で招いた学校の宿泊場所として活用していました。最近は野球部の寮も移転し、コロナの影響で練習試合もなくなりましたから、野球部関係の宿泊はあまりないですが、一般のお客さんが増えてきました。懐かしい学校の雰囲気も味わえるうえ、ホテルや旅館と違って自由に過ごせますから、お子さん連れのご家族の方によく利用していただいています。」

かつての教室をそのまま活用した客室には、ロッカーや手洗い場がそのまま残されており、教室に泊まるという非日常が楽しめる。宿泊者は体育館や運動場で自由に遊ぶこともでき、バレーボールやバスケットボールなどの遊び道具も揃う。体験メニューも豊富で、施設内のBBQ棟では天気に左右されることなくBBQが楽しめるほか、炭焼きも体験できる。BBQで使われる炭は集落活動センターの炭窯でつくった炭で、ちなみにこの炭窯も地元の人たちの手作りだ。その他、ピザ焼きやこんにゃく作りに豆腐作り、現在はさらに五右衛門風呂を建設中で、完成の暁には五右衛門風呂を自分でわかす体験もできる予定だ。これらは梼原の人々が実際に送っている暮らしそのものだ。

「遊友館では①多くの人に越知面を知ってもらう②山や川、星などの自然を満喫してもらう③地元の生活文化を体験してもらう、この3つをコンセプトにしています。遊友館を通して、来ていただいた方に少しでも越知面のことを知ってもらうきっかけになればと思っています。越知面の自然に触れ、暮らしに触れてもらう。目の前の川で魚を釣ったり、泳いでみたり、近くの山へハイキングに出かけてみたり、夜には満天の星を眺めてみたり。思い思いの過ごし方で楽しんでいただければ嬉しいですね。」

 トイレとシャワールーム、ランドリーは共同ではあるが、全部屋エアコン付き。さらに館内にはWi-Fiが整備され、ネットもサクサク。テレワーカーやノマドワーカーにも利用してもらえるよう、整備を進めているのだという。これらの設備は運営している住民たちが発案している。時流を捉えて新しいものを積極的に取り入れている、その姿勢が印象的だった。気になるお値段だが素泊まりで学生(大学院生含む)が1650円、一般客が3300円となっている。

「将来日本を支えてくれる若者たちへの投資だと思って、若い人たちには半額でご利用いただいています。おかげさまで若い人の利用も多く、首都圏のほうからサイクリングに来られた学生さんたちもいました。ここへ来て何か学ぶことがあれば、成長につながることがあればいいなと思っています。」

遊友館への宿泊は、遊友館HPまたは楽天トラベルから予約できる。

■次世代を育てる

さまざまな取り組みを行っているおちめんだが、その活動には約80人の地域住民が関わっている。しかもその半分が若者なのだ。それは、集落活動センターの取り組みを通して、「地域を守る次世代を育てること」を目的の一つとしているからだ。

「地域を存続させていくためには、若い人たちが地域づくりに参加してくれることが重要です。若いうちから参加してもらうことで、自分も地域の一員なのだという自覚を早いうちから持ってもらう。なので、活動に関わってくれているほとんどは若い人が中心で、特に夏祭りなど地域行事を担当してくれている地域継承部会では、40代が最高齢です。まとめ役が40代ならば、自分より若い人を勧誘するようにお願いしています。常に10年後のことを考えて、次世代を育てることが地域を守っていくうえでとても重要であると考えています。」

梼原の市街地から近いということもあり、移住者も多い越知面地区は、20代~50代の人口が全体の約3割を占めている。伝統行事などへの参加も積極的で、幸いなことにお祭りなど地域文化の継承が難しいという状況には陥っていないという。それも集落活動センターが、地域と若者をつなぐパイプ役をはたしているからではないかと思う。

■地域の人に還元できるように

 最後に集落活動センターの課題について伺ってみた。

「集落活動センターは、住民の方々から町内会費としてお金をいただいて運営しています。現在約80人の方々に関わっていただいていますが、地域の中には集落活動センターの取り組みに関わりのない方も多くいらっしゃいます。だからこそ、集落活動センターがあってよかったと、やっぱり必要だと感じてもらえるよう、取り組んでいく必要があると考えています。今考えているのは、高齢の方は日常生活の中で炭を使うことがありますが、なかなか自分で炭を用意することも難しくなってきています。集落活動センターで炭を安価に提供することで、地域の方々にもメリットを感じてもらえるようになればと考えています。また、集落活動センターで稼いだお金は地域のお金です。例えば、アメゴは商品価値がありますから、売り上げを地域に分配し、また運営費としてご負担いただいている金額を下げることで、少しでも住民の方々に還元できればと考えています。そのためにはお金を稼ぐことが必要ですから、今後もいろいろ取り組みを進めながら、もっと地域に必要とされる施設になることを目指したいです。」

 これまで集落活動センターは、高齢化のなかで出てくるさまざまな制約や不便を地域で補い、また地域に活力を生み出すための施設だと捉えていたが、越知面の取り組みを取材することで、次世代へつなげるための取り組みがいかに大事かを知ることができた。高齢化で集落活動が困難になるなか、集落を持続させていくには、若者の力が必要だ。幸い梼原町は移住促進に力を入れ、若い世代の移住者も多い。そんな若者が活躍できる機会を積極的に作り、若者が地域を引っ張っている越知面地区のシステムは、集落活動を維持していくうえで理想的なもののように感じた。

越知面 遊友館

【住所】高知県高岡郡梼原町田野々1285
【予約】TEL:0889-68-0888(平日10:00~16:00対応)
    MAIL:skochimen0320@mm.pikara.ne.jp
    楽天トラベルでもご予約いただけます!!
【HP】越知面友館HP ☜クリック!!
【料金】素泊まり 一般:3000円~ 学生:1650円~
【お部屋】客室7部屋/和室2部屋
【その他施設】ランドリー/シャワー室/ホール/多目的室/研修室/
       調理場/体育館/運動場/BBQ棟
【定員】83名(修学旅行など学校行事でもご利用いただけます。)

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