今年も広見川の濁水の現況を伝えていきたい。今回は、高知県で始まった石膏資材を使用した濁水対策と広見川の今について取材してきた。広見川について取り上げるのは3回目。ぜひ284~285章、295章も併せてお読みいただきたい。
1今年の広見川
濁水状況 パトロール
広見川では関係者による濁水パトロールが年に3回行われている。1回目のパトロールは4月中旬(4月14日)。水不足で代かきができない状態が続いていた。パトロールの前日からの降雨で濁りが見られたが、農業排水が原因だとは判断できなかった。
代かきをする農家も増え始めた2回目のパトロールでは、以下の写真のように農業排水だと思われる濁りが強くなってきたようだった。
*提供:広見川農業排水対策協議会
3回目のパトロールは代かき最盛期を過ぎた5月17日に実施された。広見川流域での代かきや田植えはほとんど終わっていたが、三間町の一部で代かきや田植えが行われていた。三間町内の濁度が高いことは目視からも確認できた。パトロール中、浅水代かきを実施する農家も見ることができた。
河川名 | 地区名 | 透視度(4月14日) | 透視度(4月26日) | 透視度(5月17日) |
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三間川 | 大藤地区 | 15 | 29 | 90 |
内平ヶ谷川 | 戸雁地区 | 87 | 23 | 85 |
三間川 | 迫目地区 松木堰 | 10 | 40 | 7 |
三間川 | 土居垣内地区 大井手堰 | 16 | 20 | 12 |
三間川 | 是延地区 鬼北町境 | 31 | 25 | 16 |
告森川 | 三間中間地区 鬼北町境 | 100 | 35 | 79 |
三間川 | 三間川合流① | 47 | 22 | 37 |
告森川 | 三間川合流① | 100 | 47 | 70 |
奈良川 | 三間川合流② | 100 | 100 | 100 |
三間川 | 三間川合流② | 82 | 28 | 42 |
広見川 | 久保地区 | 100 | 100 | 100 |
三間川 | 広見川合流① | 92 | 40 | 69 |
広見川 | 広見川合流① | 100 | 100 | 100 |
広見川 | 興野々地区 松野町境 | 100 | 78 | 100 |
鰯川 | 広見川入口 | 61 | 40 | 100 |
鰯川 | 上流 | 100 | 58 | 100 |
広見川 | 野尻地区 | 100 | 59 | 100 |
広見川 | 鈴井地区 | 73 | 67 | 100 |
広見川 | 葛川橋 高知県境 | 83 | 58 | 100 |
広見川 | 江川崎地区 | 100 | 66 | 100 |
四万十川 | 100 | 100 | 100 |
例年、5月のゴールデンウィークに広見川流域は代かきの最盛期を迎える。今年のゴールデンウィークは、広見川と四万十川本流の合流点で、前半はツートーンの川筋が現れていたが、後半は顕著ではなかった。広見川流域で代かきが行われていた時期だが、直前の降水(4月29日)もあったため、濁りの原因ははっきりとしない。連休中の様子を四万十川のカヌーガイドに聞くと「今年も濁っているなと思ってたけど、お客さんはもともとを知らないからキレイだと感動して帰っていく。毎年、この時期になるとまた代かきが始まったなとすぐにわかる。全く川底が見えなくなる。」と言う。
*提供:高知県林業振興・環境部自然共生課
現在の取り組み
広見川での対策は、止水板と浅水代かきの普及、広報やチラシ、防災無線による濁水排出防止の啓発活動等を行っている。また、一昨年から始まった石膏資材投入による実証も継続して行われている。
令和3年度は、石膏資材投入面積の拡大と広域的な使用、啓発を目的とした実証実験が行われた。結果として、石膏資材散布により水田内の濁りを1~2日以内で解消できることが確認された。散布時期については、田植え前の仕上げ代かき(本代かき)直前が望ましいことがわかった。また、収穫した米の品質検査をおこない、石膏資材による品質への影響はないということもわかっている。(2021年4月に実証実験 295章参照)
農家のはなし
2年前にも取材した三間川流域の農家 渡辺さんに現状を伺った。
「石膏資材の投入は、よく見たら濁りが引いている気がするし、効果はあると思う。でも、散布には動力噴霧機だと重いし、お金をかかることも問題だ。濁水が出なくなるなら協力するし、行政の広報は良く伝わっていると思う。」
だが、今年は別の問題のほうが大きいようだ。
「ここはただでさえ水が少ないところなのに、今年は近年まれにみる水の少なさで困っている。水が足りなくて自治会ごとに堰で川の水を取って貯めているから余計に川に水がない。」
濁水対策をしても米の収量があがるわけではなく、農家にとってのメリットが少ない。おまけに今年のような水不足ではそれどころではないというのが本音だろう。
石膏資材投入に濁水軽減効果があるという結果は得られたが、資材費と労力が課題となっている。今後、広見川農業排水対策協議会では「濁水軽減米」として付加価値をつけ、消費者に高く買ってもらえる仕組み、資材費を賄う補助金、石膏資材投入量の減少という点も検討していくそうだ。
2広見川だけではない濁水の問題
代かき前後の濁りは広見川だけの問題ではない。高知県側の四万十川支川も止水板の配布や浅水代掻きの呼びかけを行っているが、なかなか目に見える結果としては現れていない。農業排水の濁りについては、広見川だけの問題として捉えるのではなく、四万十川流域全体の問題として考える必要がある。
今回、高知県もさらに新たな動きを始めた。
*農業排水または前日降雨による濁水
高知県でも石膏資材投入検証を開始!
・経緯
高知県と愛媛県は、広見川の濁水問題を協議する中で情報交換を行ってきた。愛媛県での石膏資材の効果検証を広げるため、高知県でも実証実験を行うことになった。今回、四万十町企画課四万十川振興室と高知県林業振興・環境部自然共生課とが協議して、四万十町内の2か所で石膏資材投入の実証実験を行う。農家への負担を考慮して、濁水軽減だけでなく、作業性や農家のメリットも検証する。
・検証方法
投入資材は愛媛と同じく「俺のカルシウム(吉野石膏販売(株))」を10aあたり30㎏、散布を2つの方法で行う。1つ目は本代かき前に動力噴霧機で散布、2つ目は荒代直前に元肥と一緒にブロードキャスターで散布、実証圃場の採水を行い、濁度を測定する。
今回の検証は、営農支援センター四万十株式会社が作業受託を受けた圃場で行われた。この圃場では飼料米として「あきたこまち」を栽培する。同センターは現在110haほどの耕作地を請け負っているが、高齢化で年々任される圃場が増えているという。
1つ目の圃場は、ショウガ、大豆が栽培され、1年ほど放棄地になっていた土地で、雑草の根の張りが強く水が抜けやすい圃場のため、荒代前の深水状態で検証をした。石膏資材を入れた動力噴霧機を2つ使用して圃場のサイドから散布し、直後に本代かきを行った。
2つ目の圃場は、荒代かきと並行してブロードキャスターで石膏資材と元肥散布を行い、本代かきは5日後に行った。石膏資材と元肥の同時散布は愛媛でも実験されていないが、農家の負担を軽減できるため結果に期待がかかる。
・検証の結果について
24時間経過後の圃場を写真でみると、1つ目の圃場は対照区と比べて透明度が高くなっており、濁水軽減効果があると推測される(写真①)。一方2つ目の圃場では、対照区と比べて効果が分かりにくくなっている(写真②)。高知県では今後、関係者と協議を重ね、地域の実情にあった方法を模索していく予定としている。
*提供:高知県林業振興・環境部自然共生課
*提供:高知県林業振興・環境部自然共生課
これから
愛媛県で始まった土壌改良材投入が今回高知県でも実施されたように、両県が連携して、四万十川への農業排水対策は前に進んでいる。検証は今後も進めていくが、愛媛県でも課題となっている資材費と労力の軽減に向けて、両県の更なる連携が期待される。一朝一夕に解決できない問題ではあるが、両県の取り組みをこれからも注視していただきたい。