1 四万十川の学習館

 四万十川の魚に会おうと思ったら、川に入るのが一番!だが、じっくり観察するのは難しい。そこで水族館。愛媛県松野町にある「おさかな館」は四万十川の魚を学習してほしいという願いから作られた。夏休みは、川で魚と出会い、その魚を深く知る絶好の機会になる。今回は、学びの場所として「おさかな館」を紹介したい。

 館長の恩田勝也さんにお話をきいてきた。おさかな館が開館した1997年当時は四万十川を知る施設がなく、四万十川の魚をたくさんの人に学習してほしいという想いから設立された。四万十川やすぐ下を流れる広見川から地元の淡水魚を迎え、それにカワウソやペンギン、熱帯魚を加えたバラエティ豊かな館内となっている。

おさかな館

2 奥が深い淡水魚の世界

 淡水魚は海水魚に比べて地味だ。もっぱら褐色で、繁殖時期だけ色鮮やかになる。パッと見では同じ魚に見えてしまうだろう。しかし、見分けられるようになると途端にその魅力にはまってしまう。ゆっくりじっくり時間をかけて観察していこう。

鮎とカワウソ

 おさかな館で最初に出会うのは、鮎の群れとおさかな館のアイドル的な存在コツメカワウソだ。四万十川と言えば鮎であるが、警戒心が強いので、水中の動きを観察できる機会は少ない。この水槽では、元気な鮎の群れ行動をじっくり観察できる。大きな個体は縄張りを持つようになり、群れを離れ、他の鮎を攻撃し始める。縄張り鮎がどんな風に攻撃するかがじっくり観察できる。カワウソは鮎を追いかけるが、まだ一度も鮎を獲れたことはないそうだ。これからの上達に期待したい。

四万十川のスタメンたち

 少し奥に進むと個別の水槽展示が始まる。四万十川のスタメンたちが勢ぞろいで、この魚たちを覚え学ぶことが四万十川のおさかな博士への第一歩だ。流れのゆるい浅場に群れる小魚を「メダカ」だと思う人が多いようだが、それはたいていこの3種の幼魚である。川をのぞいて一番に目にする魚たちがこの3種類。全く違う種類なのだが、色も形も似ているので最初は同じ魚に見えてしまう。

 まずはカワムツ。流域では「ハヤンボ」や「ハヤゴ」と呼ばれる。いわゆるハヤ体形に少し丸みを帯びた姿で、一番の特徴は体の側面に走る黒い線だ。これを見つけたらカワムツだと思っていい。川漁師はカワムツを鰻ハヤナワのエサに使うことが多いが、最近はカワムツが簡単に釣れなくなりエサの確保に苦労していると聞く。かつては黄疸の妙薬として利用されたこともあったそうだ。

 オイカワは、昭和初期に霞が関から取り寄せたワカサギの卵にその卵が交じっていて四万十川に定着したといわれている。流域では「マス」と呼ばれることが多い。カワムツによく似ているがカワムツよりも細身、銀白色が強い見た目で、繁殖期のオスの婚姻色は青や赤がとても鮮やかで熱帯魚のようにド派手になる。

 ウグイは流域でイダと呼ばれる。典型的なハヤ体形だが、特徴は口が突き出て下向きで鱗が細かいところ。かなり大きくなり30㎝以上に成長することもある。繁殖期は桜の頃で、お腹がオレンジになり、群れになって瀬で産卵を始める。これを「タチイダ」とか「イダがたった」とかいうが、年々タチイダの規模が小さくなり、頻度も減っている。ウグイは中上流域の重要な蛋白源で、かつて窪川や大野見ではイタチの毛皮を利用した「イダのイタチ漁」が行われていた。厳寒期に淵底の穴に潜むイダをイタチの毛皮で追い出して(イダはイタチの匂いが嫌い)網で獲る漁で、大量にとれたイダはつけ焼きにしたり焼がらして出汁に使ったりしたそうだ。

 以上の基本情報を入れて、さらに一つ一つの個体を見てみよう。水槽でははっきりと姿を見ることができるので、鱗の大きさ、目や口の形などをよく見て見分けて欲しい。

 他にも川底にへばりついて生活する「ゴリ」と呼ばれる魚もいる。喉元に腹ビレが変化した吸盤を持ち、川底に張り付いて生活している。ヨシノボリ属やチチブ属が主で、種類が多く見分けるのが難しい。よく見ると頬の模様やヒレの斑点などに違いがあり、じっくり観察すると見えてくる。他にもバナナやパンダのような皮目をしたウナギがいる。遺伝子の異常らしいが、珍しいので通常のウナギとの違いを見比べたい。

アカメ

 おさかな館一番の見所はアカメ!水槽に巨大な怪魚がザワザワと動く。夜行性で夕方近くになると、活発になる。ご厚意で餌やりを見せてもらった。アジが投入された瞬間、一瞬の丸呑みで水槽越しにもわかる破裂音が聞こえた。すごい迫力だ。アカメの目が赤いのは、タペタムという反射板に反射した光が血の色を通して赤く見えているからだ。こんな巨体が四万十川をうようよしていると思うとワクワクしてくる。

勢揃いのアカメ
光に反応して赤く光った目
捕食中の様子

・面白い熱帯魚たち  

 おさかな館最後の見せ場は珍しい熱帯魚たちだ。肉食で有名なピラニアは同じ水槽の仲間を食べてしまい、食べられたところは自然治癒してモリっと盛り上がっている。ぼこぼこしているのでよく見てほしい。デンキウナギもいる。太い魚体は迫力満点!身体は脂肪で覆われていて感電しにくく、頭の先だけが胴体で他の8割が太い尻尾になっている。電気ウナギの電気は尻尾にある筋肉で作られ溜められている。電気を出すと周りの電飾が光る仕掛けになっている。同じ水槽内の仲間は感電し、時々自分も感電しているらしい。淡水魚最大の王様と呼ばれるピラルクもいる。最後の水槽回廊から上を悠々と泳ぐピラルクには感動する。

ピラルク

3魚は知れば知るほど面白い

 一つ一つは地味だけれども、動きや生活史も含めて知れば知るほど面白い。幼魚の時は海で生活し、小さい体で何十キロも川を登る魚も多い。川でのみ生活する魚(純淡水魚)は生息環境が限定されるので、環境が壊れると生きられなくなる。瀬を好む魚もいれば、淵を好むものもいて、そこに棲むのには理由がある。魚たちの生き方は多種多様である。夏休みに入り、家族で川に遊びに行くことも増える。川に行ったら水族館にも行って、魚についてもっと深く知ってみてはどうだろう。そして、また川で自然の姿を見たくなり・・・その繰り返しで魚を知っていく。知れば知るほど不思議がいっぱいで、面白い世界がそこに待っている。

おさかな館について

HP https://morinokuni.or.jp/publics/index/27/

入館料

  高校生以上     900円 小・中学生      400円 幼児(三歳以上) 200円

場所

愛媛県北宇和郡松野町延野々1510−1 虹の森公園内

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