文化庁主催の令和4年度文化的景観保護実務研修会に参加してきました。私たち四万十川財団は、普段文化的景観制度の運用に携わることのない立場(四万十川流域五市町と県の文化的景観担当者からなる「四万十川流域文化的景観連絡協議会(通称:文景協)」の事務局をしています)なので、このような会はとても勉強になります。今回は東京都葛飾区柴又(H30重要文化的景観に選定)を舞台に、文化的景観の活かし方について学びました。
最初に文化庁から、過疎地域にある重要文化的景観の活用支援に関する調査についての報告がありました。「地域らしさ」を地域再生につなげていくことが重要で、地域内で地域の魅力を共有すること、地域をどう活性化していくかの目標が共有されていること、地域外への魅力的な広報や、文化的景観を生かした商品の開発が求められ、それには資金と文化的景観を支える人づくりが大切である、という趣旨のお話でした。四万十川流域の文化的景観でも今現在課題になっていることばかりですが、今年度から始まった文化的景観の情報発信事業を通して魅力を整理し、上手に地域内外に伝えられる仕組みを整え、そこから人づくりや観光商品づくりに繋げていければと感じました。
講義
午前の部のメインは2人の講師による基調講演でした。お1人は名古屋でまちづくりに取り組む市原正人さん、もうお1人は葛飾区役所観光課の谷口榮さんです。市原さんの講演では、景観だけでなく総合的な魅力づくりが必要であり、景観と人、食、祭りの4つの要素が大事だというお話がありました。なかでも、地域の人にとっての日常(面白いおんちゃん、おススメのグルメ、大事にしているお祭など…)は外の人が見たら新鮮なものであり、そんな「異日常」を味わえる体験こそが地域の魅力になる、という指摘からは、四万十川すみずみツーリズムの魅力を再確認することができましたし、すみずみで体験できる日常を通して文化的景観を理解してもらえる仕組みができればと感じました。
2人目の谷口さんは柴又の重要文化的景観の選定に当初から中心となって関わってこられた方です。谷口さんからは、文化的景観の整備に当たっては、ただ「和風的」な整備をするのではなく、何が柴又らしいのか、どういう取り組みをすれば柴又の良さを残せるのかを意識しているというお話しや、東京で川魚が食べられるという、「川魚料理文化」の発信や、重要な構成要素にスポットを当てるためのプロジェクションマッピングを使った取り組みが紹介され、活用における着目点やアイデアなど、勉強になる視点が多くありました。
講演の後は、柴又の文化的景観の魅力と情報発信の課題を考えるグループワークに移ります。実際に柴又を歩き、聞き取りを行いながら、魅力は何なのか、情報発信における課題は何なのかを調査、発表しました。葛飾区の方にガイドしていただきながら、柴又を散策。お昼に立ち寄った「亀家」さんで、店主の方に聞き取りにご協力いただきました。あいにくお昼時でお忙しくされていたので、たっぷりとまではいきませんでしたが、草団子の起こりや、選定後の変化についてお話いただきました。ちなみに亀屋さんは「男はつらいよ」に出てくる「とらや」さんのモデルなんだとか。その後はかつて水田を潤した用水路跡(現在は暗渠)を歩きながら、寅さん記念館、江戸川河川敷、山本亭、帝釈天、眞勝院、柴又八幡神社、柴又駅を視察し、各々が感じた魅力や情報発信の課題と対応策について話し合いました。
私(羽方)が参加したグループからは、魅力として、参道に活気があり、商店街の人も文化的景観に理解があるところや、草団子や川料理など文化に根差したグルメがあること、歴史を感じられる要素が随所に残っていること、寅さんという観光資源があることが挙げられました。また課題としては、サインの整備が不十分でガイドや説明なしでは文化的景観に気づかないこと、ガイドや語り部の人づくりやリピーターを作る対策が求められるのではないかという意見が出ました。他のグループからは、コンパクトに要素が集まっており回遊性が高い一方、その分ルートに広がりがないのでテーマ別にルートを作ってはどうかという意見や、文化的景観の情報や周知が少ないため、柴又の歴史をポイントを絞ってわかりやすくストーリーを発信することが必要ではないかという意見がでました。グループワークを通してさまざまな視点による魅力の発見や課題解決が見られ、とても刺激になりました。(全国文化的景観地区連絡協議会 葛飾柴又大会1日目 その1に続く)