SDGsという新しい考え方が浸透するなかで、レジ袋が有料化しエコバッグの普及が進んでからもうずいぶん経ちますね。いまではすっかり買い物にエコバッグを持っていくことが当たり前になりました。おしゃれなものや、機能性に優れたものなど多種多様なエコバックが登場していますが、今回はそんなエコバッグについて、四万十で新たなエコバッグが登場するということで、取材に行ってきました。
自然にやさしい山間米バッグ
考案したのは四万十市西土佐でストローベイルSANKANYAを営む中脇裕美さん。中脇さんは20年ほど前に役場を早期退職して山間屋を創業した方で、清流通信でも何度か登場していただいている。
ところで、西土佐には山間米というブランド米があることをご存じだろうか。山間米は山から染み出た谷水で育てたヒノヒカリで、四万十川に流れ込む5つの支流沿いで作られている。西土佐では昔から米作りが盛んで、四万十川のすぐそばを山が囲む平地が少ない地形ながら、緩傾斜地を棚田にするなどして米作りに励んできた。そんな西土佐で作るお米は水が命。この地域では昔から「入り水(山間の一番上の田んぼに一番最初に引き込まれる水)の米はうまい」といわれ、水が米の味を作ると考えられている。だからこそ、山間米の栽培には深い山間を通って流れ出る谷水で育てることを重視し、昼夜の寒暖差が大きい気候も相まって美味しいお米ができるのだ。また、山間米は栽培期間中の防除を4回までとするなど、四万十川の清流と安心安全なお米を守りたいという農家さんの思いが詰まっており、美味しいだけじゃない、環境にも配慮したお米なのだ。
そんな山間米の販売を取りまとめているのが山間屋であり、山間米のPRと、山間米の包装に使う米袋を有効活用したいという考えから生まれたのが、今回紹介するエコバッグ「山間米バッグ」だ。米袋を使ったバッグはあちこちでよく見られるが、山間米バッグは他のバッグとは大きく違う特徴がある。
「これを作ろうと思ったきっかけは、もともと山間米の米袋の利活用の方法を考えていた時に、環境にやさしいエコなバッグが作れないかと思い、ホッチキスものりも使わない、米袋をそのまま使ったバッグを思いつきました。清流四万十川の保全に配慮しながら作る山間米らしい、より米袋そのままを活かしたバッグにしたかったんです。ちょうどその頃、レジ袋の有料化が始まって、エコバッグを使うようになりましたが、自分にとって使い勝手のいいエコバッグがあまりなかったんです。それがきっかけで、四万十発の新しいエコバッグとして山間米バッグ(山間米とマイバッグがかかったネーミング)として発信しようということになりました。」
よく見かける米袋バッグは、持ち手の部分がミシン糸で縫い付けられていたり、ホッチキスで留められていたりするが、山間米バッグはのりやホッチキスを使わず、米袋の紐(米紐やクラフトバンドと言われるもの)だけで持ち手が作られている。この作り方は裕美さんが独自に考えたもので、これが山間米バッグの最大の特徴だ。紐は米袋同様クラフト紙でできているため最終的には全部きれいに燃やすことができる。エコバッグとして使用しへたってきたらゴミ袋に、最終的には可燃ごみとして出せる、環境にやさしいエコバッグなのだ。また、米袋は3重構造でできており、エコバッグに使用しているのは30㎏用の米袋であるため、耐久性に優れ少々濡れても乾かせば問題ない。柿渋などを塗れば耐久性も上がるほか、防腐効果も期待でき、更に丈夫なものになるだろう。
「米袋の表面を見せてもかわいいし、裏面で作れば自分で自由にデザインすることもできます。マチを広めに作ればビジネスバッグにもなりますし、さまざまなサイズも作れて汎用性が高いんです。できたものには山間米のハンコを押して、山間米バッグを発信することで山間米バッグ=山間米というイメージを作り、最終的には山間米の発信にも繋がればいいなと思っています。」
流域のために
山間米バッグを使って、山間米の発信を図るとともに、中脇さんにはもう一つやりたいことがあった。それは四万十川流域で、観光による地域活性化に取り組んできた、四万十川すみずみツーリズム連絡会への売り上げ金の寄付だ。四万十川すみずみツーリズム連絡会(略称すみずみ)は、農家民宿や農家レストランなど流域でグリーンツーリズムに取り組む施設が集まって、意見交換したりスキルアップを図るために立ち上がった団体で、現在もアクティビティ体験施設やゲストハウスを加えながら、流域の観光振興を支える団体として活動している。気になった方はぜひHPをチェックしてみてほしい。実は、中脇さんは初期からこの会に関わっており、現在も会員兼役員として活躍してくれている。
「すみずみは、四万十川流域のいろんな施設が集まって、四万十川の観光について考え、長く流域の観光振興に貢献してきました。これは本当にすごいことで、こんな団体はなかなかないと思います。けれどこんな団体があるんだということは、まだまだあまり知られていません。この会がもっと活発になって、すみずみのことをもっと発信できるようになれば。そんな思いで売り上げの一部を寄付して役立ててほしいと思いました。また、会員施設で販売した分は、その施設にも売り上げのお金が落ちるようにしたいと考えています。お土産にしてもらって、少しでも稼ぎの足しになればいいなと思います。」
すみずみは年に数回連絡会を実施し、集客状況や悩みを共有したり、スタンプラリーの実施や会員施設を紹介したMAPの発行なども行っているが、立ち上げ当初から補助金に頼らない運営を行ってきており、財源はほぼ会員からの会費で賄っている。そのため、潤沢に資金があるわけでもなく、目立ったPR活動もあまりできていない。中脇さんからの提案は、先日行われたすみずみの連絡会でも共有され、ぜひすみずみも一緒に取り組みたいということで、会員施設での販売も目指して取り組むこととなった。すみずみ施設で販売する場合はすみずみのハンコを押印し、すみずみの発信にもつなげたいと考えている。
また、中脇さんは四万十川財団への寄付も検討してくれている。財団にとっても本当にありがたい話だ。
「山間米は四万十川の清流を使って育てています。すみずみは四万十のなんでもない日常を体験できる施設がたくさん集まっていて、自然に優しいツーリズムだと思いますし、四万十川財団は四万十川の清流保全や流域の振興のために、さまざまな事業を行っています。どちらも山間米と山間米バッグのコンセプトにピッタリですし、活用してもらえたら最高だなと思いました。」
財団としてもこの話を前向きに検討させていただいている。
そんな山間米バッグは実はまだ未販売。来年1月初旬を予定しており、価格は650円(予定)で、道の駅よって西土佐やすみずみの会員施設(一部施設)、地域の特産品を販売している直売所の他、東京のまるごと高知での販売も視野に入れている。将来的には山間米バッグを作るワークショップも実施していきたいという。11月27日(日)には四万十市の産業祭でワークショップを実施する予定だ。お近くの人はぜひ足を運んでみてほしい。これまで西土佐を元気にしたい、四万十の文化をつないでいきたいという思いで、精力的に活動してきた中脇さん。そんな中脇さんの新たな取り組みを財団としても全力で応援し、サポートしていきたいと考えている。皆さんも来年、山間米バッグを見たらぜひ手に取ってみてほしい。