毎年この時期に「四万十街道ひなまつり」が開催されます。四万十遺産ネットワークスが主催となって、四万十川流域5市町(津野町、梼原町、中土佐町、四万十町、四万十市)と、愛媛県の流域2町(鬼北町、松野町)の合計7市町で開催されています。歴史的建造物や地域拠点等を舞台に、地域の景色と一緒にきれいに飾られたお雛様が楽しめるこのイベントですが、今年は「景観を学ぶ」ということをメインに、各地域で講座も開催されました。そのうち、津野町、梼原町、中土佐町の講座に参加してきたのでご紹介します。
まず最初に参加したのは中土佐町での講座。大正市場近くの「ぜよピア」にて開催されました。この日は別の仕事が入っていたため途中からの参加でした。講師の溝渕博彦先生による重要文化的景観についての講演でしたが、文化庁の動画も交えたわかりやすいお話でした。中土佐町久礼地区も重要文化的景観に選定されてから年月が経ち、選定されている事実を知らない住民も増えてきているため、周知活動をしっかりとしていく必要があること、何か修繕等する際は、教育委員会に話だけでももっていってほしいことをお話されていました。どの選定団体においても住民への周知は大きな課題で、住民や所有者の入れ替わり、代替わり等もあるなかで認知度が薄れている現状があります。すでに再周知に動き始めている自治体もあるので、徐々に解消されていくのではないかと期待していますが、今後も更に周知に工夫をしていく必要を感じます。
次に行われたのが津野町の民宿長寿庵で行われた建物見学会。民宿長寿庵は私たちが事務局を務める四万十川すみずみツーリズム連絡会の会員さんでもあります。築300年の古民家が自慢のお宿でしたが、一昨年、火事で母屋が全焼してしまい、再建に向けた準備が進められていました。こだわったのは「これから300年住み続けられる家づくり」。土佐派の建築の匠に依頼し、自分たちの先祖が育てた木で造り上げた立派な母屋が完成していました。間取りも横長の建物に長い縁側が消失前の建物を彷彿とさせます。見学会にはたくさんの建築好きの皆さんが訪れ、興味深そうに見学されていました。講座の前には、おかみの仁美さんとお弟子さんによる三味線の演奏もあり、とても和やかなムードでスタート。長寿庵再生プロジェクトの施工の様子がダイジェストにまとめられた動画が紹介されました。こういった伝統的な技で昔ながらの家を建る職人が少なくなっているので、今回の見学会はとても貴重なものだったなと感じました。何より、再建して嬉しそうなご主人とおかみさんの姿が印象的でした。長寿庵は今年4月からオープンしていますので、ぜひご利用くださいね。
最後に参加した梼原町での講座では、街歩きをしながら梼原の歴史を探りました。ガイドの伊藤一博さんに案内していただきながら、役場周辺約1キロの範囲を歩きました。まず立ち寄ったのはゆすはら座。あの隈研吾さんが刺激を受けた建物としても有名ですよね。木造りの建物がとても素敵です。次に掛橋和泉邸を見ながら商店街を抜け、図書館へ。昔はこの道がメインストリートだったそうで、バス会社もあったそうです。交通網が整備されていない時代は、高知市への出張は1泊2日だったそうで、ついでにお城下で飲むのが楽しみだったとか。今は国道197号も広くなって便利になりましたが、昔のそういう話を聞くと、それもそれで楽しそうだなと思ってしまいます。商店街を抜けると図書館に到着です。隈研吾さん設計ということもあり、オープン当初から多くの観光客が訪れています。特徴的なのが、天井から伸びている何本もの木。もちろん木の枝、森をモチーフにデザインされたもので、梼原らしい風景を表していますが、建築上でも重さを分散させることで耐震性を高める効果があるのだとか。他にも中央の段々の舞台は棚田をイメージしていたりと梼原らしさが詰まった図書館です。図書館を出て向かったのは、三嶋神社。屋根付きの木橋が参道になっているここも、木のまち梼原を象徴する場所です。この神幸橋は意外にも平成に建てられた比較的新しい橋で、橋の下にはきれいに澄んだ梼原川が流れています。渡った先にある社殿では津野山古式神楽が奉納され、境内には秀吉の朝鮮遠征の際に持ち帰ったとされる大きなハリモミがあります。神社の脇からは龍馬脱藩の道が伸びており、先日の東京オリンピックの聖火ランナーもここを走ったそうです。境内では梼原の名前の由来にもなったユスノキを見ることができました。
今回3講座に参加して、四万十川、特に上流域の景観について触れることができました。地域の方や観光客の方が地域の景観を楽しむ機会はそうそうないので、こういったイベントを通して触れる機会を用意することを今後考えていかなければいけないなと感じます。ひな祭りは4月上旬まで開催されていますので、みなさん桜と一緒に美しいお雛様を楽しんでみてください。