土居明(どいあきら)
土居明さんと言えばアメゴ。令和2年には、四万十リバーマスター連絡会で、四万十川の在来アメゴの講演をしていただきました。そんな土居さんを紹介します。
基本情報
・1943年生まれ
・四万十町大正希ノ川出身
・キーワード:アメゴ在来種、自伐林家、川漁、赤松
四万十川の在来アメゴを守りたい
土居さんは約50年前、30歳前後でアメゴの養殖を始めた。もともと魚が好きで、特に川魚の中でも味も見た目も良く、40㎝以上にもなるアメゴに惹かれ、楽しみの一つに始めたそうだ。当時、アメゴの養殖は県内でも多く行われていたが、県外産のアメゴが主流で、四万十川在来種はほとんど存在しなかった。ある時、奥さんの故郷で、パーマークが7個の在来種を見て一目惚れし、以後、在来種を増やす試みを始めた。土居さんは、その場所に在来種が残っていた背景として、砂防ダムが魚の行き来を制限したことがあるのではないかと推測している。
在来種を増やす挑戦
「昔は、遊ぶなら、ずっと川ばっかりだった。川で泳いでいると変わった大きい魚がいて、それを捕まえて親に見せると、『アメゴじゃ。』と言われ、初めてアメゴを知った。70年前には、在来のアメゴが小さな川にも登っていた。昔はダムもなく、上流のアメゴも自然に交配できていたろう。その頃の在来種が残ってくれていたらよかったのだが、残念だ。」と土居さん。
四万十川流域でも県外産の養殖アメゴが放流され、在来種との交配が進んで、在来アメゴはほとんど見られなくなった。土居さんは、在来のアメゴを見つけて養殖し、在来種を増やす挑戦を続けている。今までに数千尾の在来アメゴの繁殖に成功し、四万十町内の河川に放流している。しかし、5年続けて人工繁殖していると、大きく成長した雄の精液でも受精しなくなった。高知大学名誉教授の町田吉彦先生に解剖してもらうと、精巣が発達しておらず、水だけが出ていることがわかった。おそらく、近親交配のせいだと推測するが、本当の原因は今でもわからないという。精液を持たないということは、いずれ絶える弱いものになっているのではないか。個体数がそこそこある今、種をより増やし残していきたいと思って、在来アメゴがいる場所を独自に調査してきた。支流の黒尊川の上流には、現在でも在来種が残っているといわれている。土居さんが住む大正地域周辺のアメゴと黒尊のアメゴはもともとは一緒だが、淘汰され強いものが残っているのなら、かけ合わせればもっと強い個体ができるのではと期待している。黒尊川上流の親魚を手に入れたいが、生きた魚を手に入れるのは難しい。アメゴはエサに飛びつく習性があり、針を飲み込んだら長生きできない。来年の漁期には、なんとか黒尊へ親魚を捕りに行きたいと意気込んでいた。
アメゴの技術
土居さんは、東津野村の人たちから養殖を学んだ。そこで、産卵寸前の親魚をもらい、自分で習った通りにやってみると、難しくなかったので、なんとか孵化させることができた。この作業を繰り返すことで徐々に慣れ、技術を自分のものにしていった。
「最初の管理が良くないといけないが、稚魚時の管理さえ良かったら歩留まりは良い。アメゴは卵が大きく丈夫で、他の魚に比べたら稚魚の時の管理がしやすい。キレイな水と適切な水温が肝心で、家庭排水や農業排水のない耕地が必要だ。谷水を使っているから水温が自然環境に左右されるので難しい。アメゴには17度以下が良いが、四万十川流域ではそうした水温は得られない。梅雨明けから盆を過ぎた水温が危ない。夏は温度の変動が難しく、個体数を減らして酸欠を防ぎ、餌を控えて水質を悪化させないように気をつける。昔は10月の半ばに完熟卵が採れたが、気候の変化でその時期が遅れるようになった。水温は1、2年で変動するものではなく、半月もずれるのは環境が大きく変わっている証拠だ。この影響で夏にはアメゴがかなり死んでしまった。水温が上昇すると鰓に病気が発生し、それによって酸欠になって死ぬこともあった。何度もアメゴが死んでしまったことがある。」という。
山が本業
アメゴに熱い思いを抱く土居さんの本業は林業で、100ヘクタールの山を一人で管理する自伐林家だ。山師になった60年前の大正地域は林業が盛んで、須崎の方から家族で出稼ぎに来る人も多かったそうだ。現在山師は減っているが、土居さんは今でも2tトラックとユンボを使いこなし、山から木材を下ろしては近くの貯木場へ運び出している。100ヘクタールという大きな山でも、土居さんは長年手入れを続けてきたため、山の状態を把握しているそうだ。
「若い時から百姓は嫌いでね。1年で結果が出るような作物は好きじゃない。親にも米作りは嫌だから山仕事ならやっちゃるといった。高校を卒業してからずっと山に入って仕事をしている。今は材が安くなってお金にもならないが、最初の頃は山の景気が良かった。その頃は山の仕事と百姓で生活できていた。今は、減反でコメの価格が下がったし。北方材の安いものが入りだして、今は昔の半値以下になっている。
現在は間伐が主で、経営を繋いでいくために何とか良い木を残して、間引いて生き延びていく。今、山師が少なくなって、国は皆伐を進めている。皆伐をしたらシカやイノシシの被害で後に山を育てることができない。昔は、イノシシも鹿も出てこなかったから、山を畑のようにして苗を育てた。今は、鹿が苗を食べてしまって育たない、ウサギもヒノキの苗を食べる。エサがないとヒノキの甘皮の白いところを食べる。それをやられたら腐りが入って商品価値がなくなる。補植をするが、太い木の中では成長も悪い。極端な間伐をして植え、周囲に金網を張るとかしたら良いけど、一人だけではなかなか整備ができない。新しいのを植えるのではなく、良い木を残して育てていく。木は人のためにもなっている。酸素の補給で、ちいと息をするにもね。」と、朗らかに笑いながら話してくれた。
猟も漁も好き
土居さんの家には立派な猟犬が2匹いる。山に連れていくと本能むき出しで、2匹で力を合わせて40㎏くらいのイノシシなら咥えて来るという。賢く勘が良いので、夜でも何かが近づくと吠え出し、放すとイノシシをとってくる。「犬は素直に言うこと聞いてくれる。」と土居さん。
土居さんは漁も好き。鮎は楽しみで火振り、投げ網をする。父、祖父がやっていたことで覚えたようだ。
「この辺の人は誰でもやっている。昔は川漁師がおって、鮎や鰻をとって生計を立てていた。うちも火振りで鮎が獲れたら売ったりしていた。山から帰ってきたら川に火振りに行ったり。昼間は投げ網をしていた。ふつうのこと。それがみんなの楽しみだった。おかずになるしね。」
海の赤松とオカヤドカリ
釣りが好きで海にも通う土居さん。最近、大発見をしたらしい。黒潮町の旧国道沿いの岬で、何を狙うでもなく糸を垂らしていた時に、波打ち際で半分腐りが入っているけれども生き延びている赤松があった。
「なんと見事な赤松だった。近年、松くい虫で松が大量に枯れているので、自然に強い松を探し回っていたところだった。おそらく100年以上の赤松だろう。松くい虫が流行ったときに生き延びているのだから抵抗力があると思った。林業試験場の人も案内した。この苗を作ったら強い松ができると思って、つい昨日松ぼっくりを拾いに行った。昨年から苗も作り始めた。うまくいったら黒潮町に持って行って植えたいと思っている。あの赤松、何とか枯れないでくれたらいいけれど。道楽もたまにはいいことがある。」
他にも、オカヤドカリがいる秘密の場所を見つけた。絶滅危惧種なので毎年ジッと見守っている。
焼酎も勉強中?
勉強熱心な土居さんは焼酎の勉強?も始めたという。
「焼酎をたくさん飲んで、どれが美味しいか勉強している。芋よりは麦かそば。栗焼酎も癖がないから美味しいし、なんぼ飲んでも酔いはせん。日本酒は若い時にずいぶん飲みよったが、卒業した。度のきついものにしとる。ビールは酔うまでに腹がはるから好みじゃない。どぶろくはいいね。上手な人がつくったのは良い。」
お酒が大好きな土居さん、勉強(笑)もほどほどにお願いしますね!
土居さんは山、川、海とつながっている。大好きなものがたくさん、探求心もあふれんばかり。最後に、在来種のアメゴを放流したところに産卵の兆しがあるという明るいニュースをもらった。また、進捗を知らせてくれるという。今後ともよろしくお願いいたします。