この研修はこうち森林救援隊が行っているもので、今回は四万十市で宮崎聖さんを講師に自伐型林業について学ぶということで、参加しました。宮崎さんが日頃行っている作業を見学しながら、宮崎さんの林業の考え方を2日間かけて学びます。宮崎さんの林業スタイルは以前ブログでも紹介させていただいていますので、よければそちらも併せてご覧ください。
講習には本山町や佐川町の地域おこし協力隊、高知大生やこうち森林救援隊のメンバーなど約30名が参加。簡単な自己紹介とスケジュール確認の後、早速宮崎さんの山に入って研修スタートです。まずは、宮崎さんが考える、林業を始めるうえで考えておくべき、知っておくべき事について教えてもらいました。山づくりを始める前に、どんな目的で山づくりを行っていくかをしっかり考え経営方針を立てておくこと、稼ぐために山づくりをするのか、レクリエーションの場として整備したいのか、目的によって山づくりのやり方が異なるため、まずそこをしっかり設計することが大事だそうです。また、林業をしていくにあたって、その山の情報を正しく把握しておくことが重要だということも教えてもらいました。何年生の木が生えているのか、何本生えているのか、作業道がつけやすいか、搬出までの時間はどうか、、、。たしかに経営方針を立てる上では大事な視点ですね。
木には枝葉を伸ばす木と、幹を太らせる木と2タイプがあるそうで、長く林業をやっていくためには、幹が太る木を育てたいため、どの木がどのタイプの木なのかを見極めることも重要なんだそうです。特徴としては枝葉が多く、空があまり見えない木は枝葉が伸びる、幹の太さが上にいくにつれても変わらないような木は幹が太るタイプなんだそうです。正直見ただけではあまりわかりませんでしたが、これも経験を重ねるうちにだんだんわかるようになってくるのだそう。木の見分け方を学んだら、今日伐倒する木をみんなで選定します。先のほうが曲がってる木を切ってはどうか、すぐそばに間伐した空間があるため別の木がいいのではないか、この木を倒すとしたらどのように倒してどう搬出するか、教えてもらった知識をフル活用しながらみんなで話し合い、伐倒する木を選びました。
伐倒する木が決まったら、この木でいくら稼げるかの目算を立てます。今回伐倒するのはヒノキ。価格表とにらめっこしながら、この木が何メートルあるのか、何本取れそうか、径はどれくらいになるか、直材か曲り材か、どの長さで製材するかを考えました。径何センチの何メートル材でいくら、次に径何センチの何メートル材をとるとしていくら、、、合計でこの木でいくら稼げる想定なのかを導きます。これには木を読み解く力も必要なのだと感じました。しかしこの作業のおかげで、お金を意識した林業への理解にぐっと近づけた気がしました。
目算ができたら次は伐倒作業です。宮崎さんとその林業仲間の3人で伐倒作業を行い、参加者は少し離れたところで見学させてもらいました。まずは伐倒方向を決めます。今回は搬出のことを考えて山側に倒すことに。作業効率を上げるためにも、搬出のことまで考えて倒すことも重要なんだそうです。ロープとウィンチを使って安全に確実に倒していきます。宮崎さんが受け口を作り、差し込み切りで芯を抜き、反対側から差し込み切りをし、宮崎さんの合図にあわせてお仲間の2人が2本のロープで慎重に倒していきます。微調整を行いながら、見事想定していた場所に伐倒することに成功!丁寧かつ慎重に作業を行うことで、ケガを防ぎ、この後の作業の手間も減らせる、とても理にかなったやり方なんだなと感じました。
切った木の周りに集まって、どのように製材していくか、再度価格表を参考に一番稼げる切り方を検討しました。まずは元玉から検討開始。末口が直径30センチあると想定し、何メートルで出したら高いのか、、1本で出すか2本で出すか、、悩みどころです。とりあえず5メートルのところに印を付けて翌日判断することに。次に2本目、3本目、4本目も径の大きさを考えながら材の長さを決め、この日の作業は終了しました。
2日目。昨日印を付けた長さで裁断していくところからスタートです。幹が1番太い部分である1本目は一番高く売れるところ。ここで失敗すると、材の価値を大きく下げてしまう可能性があるので、慎重に行う必要があるそうです。大事な1本目は宮崎さんが裁断し、残りの2本目、3本目を参加者の方(どちらも地域おこし協力隊で林業従事者)が裁断しました。価格に直結する作業なので緊張もあったと思いますが、無事裁断作業が完了。今度は木にワイヤーをかけて林内作業車に材を積み、作業場に移動します。細くて狭い林道を6mの材を積んで走る様子、特に狭いカーブをバランスを崩さず曲がる様子も見学しながら山を下り、次はいよいよ材の最終調整です。山で裁断する際に設定した材の長さより少し長めに裁断し、作業場で最終的な微調整を行うんだそうです。まずは一番太い1本目、メジャーを合わせて曲がり具合を確認します。直材の2メートルと大曲の3メートルで出すか、直材の4メートルにして元玉をチップにするか、最終的に後者のほうが高値になると判断し、4メートルに裁断して1本目を仕上げました。また、1本目の末口に死節があったため、数センチ切ってきれいにすることに。ここでも切りすぎてしまうと、径の大きさが変わって価格に影響が出るため、考えなしにやるのはダメみたいです。わずかな微調整で価格に差が出てしまう、かなりシビアな作業なんだなと感じました。今回の製材の結果は、時給換算するとだいたい4500円。宮崎さんはいつも時給5000円になるように作業効率を考えて材を出すそうです。経験を積んでもっと効率よくできれば時給が上がっていく、そうやって林業で稼いでいくんだということを、教えていただきました。
製材を終えお昼ご飯を取り、午後からは宮崎さんの製材所を視察させていただきました。宮崎さんはヒノキ材を使った木工品の販売も行っており、軽トラサウナの他に、折り畳み式のテーブルとベンチのセットもありました。テーブルとベンチは簡単に組み立てられるのに安定感も抜群で、アウトドアにもってこいの製品で、人気商品なんだそうです。本当は自分が切り出した材を製材、加工して製品化する、六次産業化が理想的ですが、コストがかかりすぎるため、なかなか難しいそうです。
最後は集会所に移動して今回の研修のまとめを行いました。2日間の研修でしたが、終わってみればあっという間でとても中身が濃い研修だったと思います。参加していた方の中には将来林業に携わっていこうとしている方たちも多くいたので、今回の研修はその方たちにとっても今後の自分の林業のスタイルを決めていくうえで大きなヒントを得られる、とても有意義なものだったのではないかと思います。
私自身も今回研修に参加して、はじめて宮崎さんの林業の向き合い方、考え方に触れることができ、とても勉強になりました。自伐型林業をやっていくうえで、補助金に頼らずにどうやって林業を生業として回していくのかは大きな課題の一つだと思いますが、宮崎さんはその点を完全にクリアしているのがすごいなと感じます。簡単ではないけれど林業でも稼げるんだという認知が広まり、山に関わる人、山を管理する人が増えていけばいいなと思います。今回は「稼げる林業」をテーマに山に関わらせていただきましたが、財団でもこれから多くの人に山にもう一度意識を向けてもらえるよう、さまざまな視点から山にアプローチしていきたいと思います。