旧大正町の中心市街地田野々から8キロ、車で約15分のところに、「中津川」という小さな集落があります。かつては営林署もあって林業従事者とその家族で賑わった集落です。「久木の森風景林」という静かで美しい森もあって、そこに付属するキャンプ場は知る人ぞ知るソロキャンプの人気スポットになっていたりします。

久木の森山風景林

今回、その中津川集落が、中津川区長、四万十町長、 高知県林業振興・環境部長の3者の出席のもと、「大正中津川集落の人と自然が共生する地域づくり協定」を締結しました。これは、難しく言うと、「四万十川条例第15条に基づく『地域の人と自然が共生する地域づくり協定』 ー 略称:共生モデル地区協定(注1) ー 」で、行政と地域の住民組織とが一緒になって環境保全と地域づくりを行う共同宣言に近い性格の協定です。平成25年8月にはじめの協定を結び、今回で第三期目となります。

高知県林業振興・環境部の西村光寿部長は、挨拶の中で中津川集落が国の重要文化的景観にも選定されていることに触れ、中津川が自然と環境を保全しながら地域づくりをしていく、言葉通りのモデルとなるように、県としても一緒に取り組むと意気込みを述べました。また、小野川公也 中津川区長は、今年の泥んこ運動会が7月21日に決まったことと、先日天理教から四万十町に寄贈されることが決まった70年前の中津川の山の記録映像について触れ、そういった地域の財産を生かしながら地域づくりを進めたいと挨拶しました。中尾博憲四万十町長からは、中津川が30戸40数人の小さい集落ながら、人が光っている、これが四万十町の目指す町のイメージだと述べ、引き続き自然と文化が一緒になった取り組みを進めていってほしいとエールを贈りました。協定で目指す移住者についても、四万十町の令和5年度の移住者が188人(県2位)、転出多いのが課題だが、戻りたくなった時に帰ってこられる環境、人間らしい暮らしができる環境を中津川集落に学びながら作っていきたいと抱負を述べました。

協定を結んだあとは、話題にも上がった山の記録映像を見ながら、取り組みの一つである「日曜モーニング」をいただきました。一人前500円。全部おいしいのですが、やはりお米のおいしさが際立っていました。(個人の見解です)シェ・ムワさんの食パンを使ったトーストもこれまた絶品でした。

注1[共生モデル地区について]
共生モデル地区は、四万十川条例第11条第5項により、優れた河川の水質と動植物の多様性を確保し、特に良好な景観を有している地区と規定されている。県による指定告示により、共生モデル地区となる。また、共生モデル地区になると、条例第15条に規定する、保全のための協定を締結することができる。
大正中津川集落以外の共生モデル地区は、平成18年度に四万十市西土佐の黒尊川流域が初めて指定され、地元の住民組織「しまんと黒尊むら」と四万十市、高知県とが協定を締結している。

協定の第5条には「目標とする姿」として以下が並べられています。

目標とする姿(協定第5条)
1 新たな産業や起業に取り組むことにおいて、集落の地域資源を最大限に生かす事が出来ること
2 交流・定住において、Iターン者だけでなく後世の世代が戻ってきたくなるような集落であること
3 福祉・コミュニティづくりにおいて、集落の住民全員が家族の様な関係で常に会話のある毎日の暮らしが実現していること
4 環境保全・景観づくりにおいて、循環型地域社会として持続可能な発展に期待できること
5 伝統文化の継承において、次の世代につながる文化や伝統を世代間で共有し新たな文化も創造すること

これに基づき、様々な取り組みがなされています。

  1. 森林山村多面的機能発揮交付金(林野庁)、高知県清流保全パートナーズ協定(高知食糧株式会社)を利用し、集落周辺の水辺林の間伐やゴミの清掃。
  2. 間伐材を利用した炭焼き体験。
  3. 間伐材を集落で薪や炭として活用し地域資源を生かした取組。
  4. 魚類の遡上阻害となっている砂防堰堤について、生態系保全の視点(生息魚類種)から魚類の専門家を講師に招いて勉強会を開催。
  5. 久木の森山風景林の整備とトイレの管理。
  6. 文化庁の重要文化的景観に選定された地域資源を生かすため、キリンビール株式会社主催の「山の手入れ体験バスツアー」の参加者と協働し、久木の森山風景林で間伐作業、自然観察、植樹活動を行う。
  7. 廃油を利用した石鹸作り体験を開催し、全戸に石鹸を配布、循環型地域社会を目指す取組を行った。
  8. 交流人口増加を目指し、「食」を中心とした交流事業。
  9. 自然学校のスタッフと連携し、県外から子ども体験キャンプを受け入れ、田舎暮らし体験や郷土料理を提供。
  10. どろんこ運動会を開催。運動会後の懇親会で集落外の参加者と地元住民とのさらなる交流も図った。
  11. 田植え&稲刈りイベントを開催、収穫したお米は、参加者が持ち帰った。一部はふるさと納税の返礼品として販売、藁は幡多地域の水産業者に販売。
  12. 流域連携「四万十街道ひなまつり」の地域会場として参加。
  13. もみじまつり~収穫祭&音楽祭~を久木の森山風景林で開催。
  14. もみじ祭りと同時開催で4kmのコースで自然を体験してリフレッシュする「大正中津川リフレッシュウォーキング」を企画。
  15. 集落内交流の取組「ひなまつり食事会」「納涼祭」「敬老会」「日曜モーニング」等を開催。
  16. 警察官や保健師を講師に招き地域のための勉強会等の地域内交流活動を月1回程度開催。
  17. 四万十町が整備した「お試し滞在施設」を活用して、移住希望者の定住に繋げる取組を行った。
  18. 「中津川通信」(名称変遷:なかつかわかわらばん→中津川通信)を累計60通発行。
  19. 集落活動センターでフェイスブックを立ち上げ、イベント周知や地域の情報発信。
  20. 中津川の歴史、文化を次世代に引き継ぐため、高知大学の支援も得ながら、中津川在住のアマチュア写真家による大量の写真をネガフィルムからデジタルデータに変換し後への記録保存へと繋ぐ取組を行った。