文化的景観研究集会「風景を耕す、その悦び」に参加しました。文化財保護法に「文化的景観」が新設されて20年ですが、今回のテーマは「風景を耕す、その悦び」。20年目だから制度の話をするに流れないところが奈文研、というか惠谷さんだなと感じました。原点に戻ろうということなんだと思います。
はじめにお二人の先生から基調講演。
陣内秀信先生(法政大学) 「イタリアにおける風景論ー都市からテリトーリオへー」
イタリアの都市研究のご経験から、都市と田園空間との有機的繋がりを表す「テリトーリオ」という概念を文化的景観にも取り入れることを提案されました。「テリトーリオ」とは「都市と周辺の田園や農村が密接に繋がり、支え合って共通の経済・文化のアイデンティティをもち、個性を発揮してきたそのまとまり」(陣内秀信、2021『都市のルネサンス―イタリア社会の底力』古小鳥舎)のことで、今の日本でいえば「郡」の概念が近いのではと勝手に思っています。特に重要文化的景観選定地は、広域連携している四万十川と阿蘇を別にして、高所から見れば一目で見渡せる程度のまとまりを扱っています。もちろんその周辺との繋がりも考えてはいますが、それがどの程度までの広がりの中でとらえるかについては曖昧ですので、そこを意識化する意味でも面白いかもしれません。
石川初先生(慶應義塾大学) の「工作者/耕作者の風景」
石川先生は、はじめに、「陣内先生は『ブラタモリ』的なお話でしたが、私が出たことのあるのは『タモリ倶楽部』の方です。」という一言から始められました。そして、その通り(いい意味でです!)、タモリ倶楽部的なお話でした。徳島・神山町での調査実習で気づいた、ハイブリット石積み(自然石とコンクリートなどの人工物の組み合わせで作った石積み)、そこら辺にあるものを上手に使って道具を創作するFAB-G(Fabrication skilled grandfather/grandmother レビストロースの言う「ブリコラージュ」をするおじい、おばあのことでしょうか)、まかない農地(プロ農家が自分くの食べる分を育てる畑のこと。多品目栽培になっているが、随所にプロのスキルが光る)、棚田を駐車場にした棚駐(説明要りませんね)、サンセットウォーカー(多分この説明では伝わらないと思いますが、車道/車道以前の歩道 という二分法をアウフヘーベンしてくれた、夕方に散歩する人たち・・・書いている自分もこれでは何のことやらわかりません)など、従来の「由緒正しさ」を探す景観調査で見落とされてきた住民の営みをユニークな命名で概念化する手法がとても刺激的でした。
休憩後ポスターセッションを挟み(財団も参戦しました)、
そして、座談会。講師のお二人に、本橋仁さん(金沢21世紀美術館)・栗生はるかさん(一社せんとうとま
ち)のお二人、そこに奈文研の小浦先生と惠谷さん、そしてそして、進士五十八先生が登場するこのセッション、面白かったーの一言ですね。文化的景観の人とアートの人の、ジャズセッションみたいなやり取りもですが、「むらなみ」「百姓のデザイン」・・・進士先生ご自身の言葉で文化的景観研究史を振り返りながら今後の指針を与えていただいたような時間でした。
写真がないのが残念なのですが、この後の情報交換会、カレー屋クスンさんのケータリングで一杯だったんですが、カレーがおいしくて、4回お替りしました。それから奈良のお酒も。