今回の清流通信は、全国で2番目となる猟友会青年部を立ち上げ、650名を束ねる若き専業猟師・戸田英作さん(35)に注目しました。紆余曲折を経て、やりたい事が見つかった若者の奮闘ぶりをご覧ください。
四万十町で生まれ育った戸田さんは、平成元年生まれの35歳。高校中退後、東京で働き、ニュージーランドにも留学した。しかし、やりたい事が見つからない。タイムカードを押す仕事にも疑問をもった。その後、父が経営している介護施設で働くようになり、趣味のつもりで25歳の時に狩猟とワナの免許を取得した。11年間、父が経営する介護施設で働き、2年前に退職して、現在は「専業マタギ」になった。
食害をもたらす鳥獣を捕獲すると、報奨金が出る。シカは17,000円/頭、イノシシは13,000円/頭、カワウは5,000円/羽だ。「専業で生活するのは厳しい。」と言うが、地域の人達には歓迎されている。今年の夏にはイノシシやシカが田畑に出没し、猟銃で仕留め、感謝され、頼りにされている。やりたい事がなく苦しんだ時期もあるが、狩猟と出会い、自身の存在意義を見出す事ができたと顔を輝かせた。
下の動画は、四万十町の農家の畑に迷い込んだイノシシを戸田さんが実際に仕留める動画です。興味がある方はご覧ください。
戸田さんと愉快な仲間たち
輝く人の周りには自然と仲間が集まってくる。戸田さんを中心にコミュニティが形成され、この5年で60人になった。その内20名が猟銃免許を取得した。今後もドンドン増えていくと手ごたえを感じているそうだ。猟師にとって生命線とも言える猟場を共にする弟子も6人(高知市内に5人、町外に1人)いる。高知市内などでは、せっかく狩猟免許を取得しても猟場が確保できず、猟がしたくても出来ない若手狩猟者が多いと言う。そんな狩猟者に猟場を提供し、手取り足取り指導している。
戸田さんは「やりたい事がない人は猟友会へ」「趣味としても最高」だという。有害鳥獣捕獲隊に入れば、実益にもつながる。70~80万の初期投資で始める事ができる。もちろん、その成果は人によってまちまち。「獲れない人は全く獲れないし、獲る人はバンバン獲っていく。」狩猟との関わり方や腕によって大きく変わってくる。反射神経や動体視力が要るので、10月にはクレー射撃で100発は練習している。また一瞬で獲物を見分ける識別力も必要だ。ドバトなど撃ってはいけない鳥もいるからだ。獲物を追って野山を駆け巡る事で、体も強くなり、雑念が消え、英気が養われるという。四万十の自然はポテンシャル無限大だ。興味がある方は戸田さんに声をかけてみてください。
猟友会青年部立ち上げとNPO法人への参画
高知県の猟友会のフォーラムに若者代表として登壇したことがきっかけとなって、猟友会への伝手ができた。そこでだんだん分かってきたことは、若者が猟友会に入っても、楽しめていない事が多く、辞めていく人が多くいること。そこで青年部を立ち上げようと一念発起した。全国で最初に猟友会青年部が出来た徳島に話を聞きに行った。そうして5年前に青年部が立ち上がり、現在650名になった。今後の目標は、「会員を増やしていく事」、そして「会員に楽しんで継続してもらうことだ」と言う。獣害も多いので、若い人にドンドン入ってきてほしいそうだ。
NPO法人 くぼかわ里山を守る会への参画
戸田さんは猟友会青年部だけでなく、地域の田畑を守るための自治組織にも参画している。NPO法人 くぼかわ里山を守る会 だ。地域の人と協力して、巨大な囲いワナを設置し、近隣の農家から農作物を分けてもらい、人里離れたところに仕掛ける。エサに釣られてやってきたシカやイノシシを一網打尽にする作戦を計画中だという。
今年は、窪川の市街地でもイノシシ被害が出た。大正や松葉川や神ノ川でもウリボウが激増したという。考えられる原因は、今年はタケノコが豊作で、イノシシがそれを食べて元気になり、子が生まれたのではないかという。
ウリボウは1年で10kg程度太る。生後1~3年のウリボウは恐いもの知らずで、柵を破ったり、農作物を荒らしたり、まるで「チンピラ」だという。今年の有害捕獲は、去年より500頭多い、2200頭取れたが、それよりまだ増えているらしい。また、駆除したとしても、ウリボウを失ったメスのイノシシは発情期に入り、「産めよ増やせよ」状態になる。このままでは、人間のテリトリーが野生動物に押されっぱなしになる。戸田さんと地域住民が団結して巨大な囲いワナで対抗する取り組みは、成功すれば良い先行事例になるかもしれない。今後も注目していきたい。
四万十川流域で激増するカワウ
四万十川全域でカワウによるアユの食害報告が相次いでいる。本来、ウは川や山には少なく、海の沿岸部にコロニーを築き生息している。それがアユの遡上に伴って、四万十川の上流までやってきて、相当なアユを捕食している。
人間の社会を席巻し続けるイノシシ、シカ、カワウ。人間とのバランスを保つ大きな役割を果たしているのが、猟友会が行っている鳥獣の個体調整の活動。戸田さんはこれをミッションとしてやっていきたいという。
正確な獣害データがなく支援策につながらない事が課題
四万十町内の鳥獣による被害は年間1000万円弱といわれているが、それは「氷山の一角」だという。戸田さんが把握しているだけでも、計上されていない被害が、去年だけで10カ所あると言う。被害報告をしても、農家が救済されるわけではない。メリットがないのでわざわざ報告しないのが実情だそうだ。
これでは獣害が増え続けている根拠が出てこないので、根本的な防衛策につながっていかない。行政がこうした数字に表れない現状を認識しないと今後も獣害は増え、田畑がどんどん耕作放棄地になっていく。現状把握ができる正確なデータがない事が課題だ。
ある日の猟に同行 鴨鍋で飲み会
実際の猟にも同行させてもらった。まずはシカやイノシシを獲るためのくくり罠から。戸田さんのお祖父さんが30haの山林を遺してくれた。その一画に仕掛けた。
シカやイノシシは枝をよけて踏むという。
生前、お祖父さんはイノシシやシカに山が荒らされているのを嘆いていたそうだ。子どもの頃、お祖父さんの言う事をあまり聞かずケンカもしたそうだ。だが今はお祖父さんが暮らしていた土地に家を建て直し、戸田さんが山を守りながら暮らしている。もしご存命であれば、さぞかし喜ばれている事でしょう。
続いて、カワウやカモを探しに水辺を見て回った。残念ながらこの日は獲物を手に入れることは出来なかった。軽トラで猟場を移動しながら、いろいろな話をした。意気投合して、十和のライダーズイン四万十で一緒に吞む事になった。戸田さんが仕留めたカルガモ2羽をカモ鍋にしていただいた。都会で食べると軽く1万円は超える。そうした贅沢品が惜しげもなく振舞われるのが田舎の豊かさ、戸田さんの心の豊かさだと感じた。
狩猟と命について
日本人は古くから狩猟を行い、仕留めた獲物を食料や衣服にしてきた。狩猟は、「生きる」ということに直結していた。同時に命を奪う瞬間とも向き合う。狩猟を専業にしている戸田さんだから、分かる事、感じる事があるのではないかと思い、「命」について聞いてみた。
戸田さん「狩猟に前向きだった人が、『とめ刺し』の血を見て気持ち悪くなったり、頭がバグる人がいるけど、1時間後にはそれが捌かれて肉の塊になる。その後5分で焼肉になり、食べて「美味い!」と言う。果たしてどこまでがいのち?生きているのがいのち?否定も肯定もない。見方でも変わるし、やりたいようにしたらよろしい。」
私は財団の仕事以外にも、樵として、半世紀以上生きてきた樹木を伐倒し、生活の糧にしている。伐倒したいくらかは製材して、自宅や親族の家の一部として「生き続ける」。樹木は、伐倒されることによって、そこで立木としての生を終えるが、今なお風雨をしのぎ恩恵をもたらしてくれる。「果たしてどこまでがいのち?」というのは、そういった感覚に似ているのかもしれないと感じた。狩猟も林業も、山の恵みをいただくという点で本質的に同じなのかもしれない。さらに戸田さんが面白い話をしてくれた。
戸田さん「ライオンなどが獲物の息の根を止めるために首を嚙むシーンを見たことがあると思いますが、噛まれている方は、観念して、快楽物質が出ているそうです。」
他の犠牲になる瞬間に快楽物質が出ているというのは、面白いと思った。野生動物が天寿を全うする事は少ないだろう。大抵は、どこかで「誰か」の獲物になるのが圧倒的多数だと思う。その一環として人間の獲物になり、それを人間が「美味い!」と言って食べ、命を繋いでいく事は大きな供養になるのではと感じた。
戸田さんの自分に正直に生きていく姿や「やりたい事がない人は猟友会へ」という器の大きさに感銘を受けた。バイタリティー溢れる戸田さんの挑戦に今後も注目していきたい。