たかはし河川生物調査事務所(人と、川・アユの関係研究所)代表 高橋勇夫さん

令和6年度のリバマス連絡会を開催しました。今年の話題は、何と言っても激減したアユでした。という訳でアユと言えばこの方。高橋勇夫(たかはし いさお)さんに講演をお願いしました。

まずは基礎知識として、日本全体のアユと川の厳しい現状について話していただき、その後、対策としてどういった事例があるのか、明るい展望も含めて話していただきました。そして、最後に財団からお願いしたお題「激減したアユ、その原因と対策を考える」についてリバマスさん達と一緒に考えていきました。

今回は、「激減したアユ、その原因と対策を考える」の部分に焦点をあて、皆さまと共有させていただきます。それでは参りましょう!

さっそくですが高橋さんより以下の質問がされ、リバマスさん達に該当すると思うものに手を挙げていただきました。

2024年四万十川でアユが激減した理由は?
a:四万十川の河川環境の悪化が限界に達した
b:漁獲過剰(火振り漁、落ち鮎漁)
c:アユの仔稚魚が暮らす海の生息条件の悪化
d:それ以外

aに手を挙げるリバマスさんが多かったです。bは、少数派。cはパラパラという感じでした。皆さん、いかがでしょうか?考えてみてくださいね。

まず一番多かったaについて、高橋さんから「大河川で四万十川よりも河川環境が良好な河川をあげてください。」と質問。これまで全国のいろいろな河川に潜って実際に見てきた専門家の見解は「四万十川ほど河川環境が優れている川はない」というもので、優れている点として、以下の3つを挙げていただきました。

・河川形態の人工化率が低い(圧倒的!)
・河床の更新が比較的大きい(産卵場が好適)
・透明度が比較的良好(少なくとも冬場は良い)

今年、大不漁だった原因として「河川環境の悪化が限界に達した」というのは考えにくいそうです。その傍証として、以下の2つが挙げていただきました。

・九州から紀伊半島までの太平洋側の広い範囲で遡上量激減(川の問題ではない?)
・たった1年で河川環境が激変するはずがない
(四万十は2020~2023年は比較的遡上量が多かった)

天然アユが棲めなくなる要因となる河口堰(産卵場よりも下流にある堰)や人工的な護岸がほぼない事も、四万十川の優れている点として挙げていただきました。

次はbの「漁獲過剰(火振り漁、落ち鮎漁)」についてです。四万十川と高知県の東部河川の違いについて説明していただきました。共に12/1から落ち鮎漁の解禁になりますが、四万十川は産卵場の一部に禁漁区があるだけなのに対して、県東部は「産卵域は10/1以降再解禁無し」という措置がとられていて、これは「事実上の落ち鮎漁禁止」となるようです。

こういった措置の違いにより今年、釣果の違いはあったのでしょうか。今シーズン、安田川は「解禁時から釣り人が多い状態が継続」したそうです。8-9月になって、物部、奈半利が好調になり、「四万十川のセミプロもしばしば来川」するほどだったそうです。よって、決定打ではないものの「落ち鮎漁の悪影響が出た可能性は否定できない」という事になるかと思います。

次はcの「アユの仔稚魚が暮らす海の生息条件の悪化」について説明していただきました。まずはこちら。

2019年以降、秋に生まれた赤ちゃん鮎が、翌年の春になっても帰ってきていないのがよく分かります。数千匹に1匹しか帰ってきていませんね。回帰率が爆下がりということです。

では、原因はどういった事が考えられるでしょうか。エサの減少と外敵と海水温上昇の3つを挙げていただきました。エサと外敵に関してはデータがないため、海水温の上昇についてデータを元に考察していきました。

海水温の上昇により、どういった不具合が起こるのか、まず前提知識として、「稚鮎は20℃以上で塩分耐性が下がる(つまり死にやすい)」ことと「高水温では代謝スピードの増大に摂取エネルギー量が追いつかない(つまり餓死する)」ことを教えていただきました。そして、下の画像をご覧ください。今年の11月下旬の海水温は23~24度で、平年より2度も高かったようです。「とても鮎が生き残る温度とは思えない」と指摘がありました。

次の資料を見ると四万十川河口周辺の海水温が安全圏の20℃以下に下がるのは、12月20日以降。つまり、それまでに生まれたアユの赤ちゃんは、生き残る率が下がるという事。そして、12月1日の落ち鮎漁解禁により安全圏の12月20日以降に生まれる赤ちゃんの量が人為的に減らされている可能性をご指摘いただきました。

最後にアユ資源保全のための対策は「現段階では不明」としながらも、たとえ海水温が高くても高温耐性があるアユは生き残るので「アユが有する再生産能力をできるだけ削がない」事が重要だと教えて頂きました。

そのヒントは、ここでは割愛した講演中に散りばめられていた、稚鮎放流による病気の蔓延(冷水病、エドワジラ・・・・)の話や、天然アユの遺伝的特性を守る話、稚鮎放流を止めてもアユは減らない事例などにあったように感じました。

高橋勇夫さん、貴重な講演をありがとうございました!大変勉強になりました。