滋賀県高島市で開催された文化的景観保護実務研修会に参加してきました。今回は「空き家の活用」をテーマに、講演や事例発表、フィールドワークが2日間かけて行われました。
滋賀県は7件の重要文化的景観が選定されている文化的景観の先進地。そのなかでも、高島には3件の選定地があります。1つめが「高島市海津・西浜・知内の水辺景観」、2つめが「高島市針江・霜降の水辺景観」、そして3つめが今回の研修の舞台となった「大溝の水辺景観」です。ここは、かつて琵琶湖の舟運の港町として栄えた場所で、大溝城がおかれ、武家屋敷や城下町が広がっていました。現在も古い町割りや建物が残っており、趣のある雰囲気を作り出しています。そんな歴史ある大溝では、空き家を活用したまちづくりが進められています。今回は実際に現地を視察しながら、その取り組みを勉強しました。
1日目の講演では、広島県尾道市で空き家再生に取り組んでいる豊田雅子さん、兵庫県朝来市でまちづくりに取り組んでいる小島公明さん、レハン・ネルさん、地元高島市大溝で空き家活用に取り組む上田未來さんより、それぞれの取り組みを説明していただきました。
尾道は古くから港町として栄え、レトロな街並みも多く残る魅力的な街ですが、そんな建物が空き家となり、解体するにも坂が多く道も細いため重機が入りづらく、直すのと同じくらいのお金がかかるんだそう。そうであれば直して活用することで、古い街並みを保全し、新しいコミュニティを作っていこうと「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」を結成し、今では10軒以上の空き家を再生されているそうです。改修の際には、なるべく建物の外観を変えないことで景観を守り、住民が参加するワークショップをしたり、建築を学ぶ学生の学びの場にしているとのことでした。空き家の再生を通して、移住者や学生、住民のコミュニティづくりに生かしている点がとても勉強になりました。
また朝来市は生野銀山で栄えたまちで、鉱山町ならではの歴史ある街並みが特徴的ですが、こちらも例にもれず、かつての職人たちが暮らしていた建物が空き家化し、その活用が課題に。そんななか、地域おこし協力隊であるレハンさん(南アフリカ出身・北海道でのALTを経て現職)が、空き家を活かしたゲストハウスをオープンすると同時に、外国人ならではの視点で朝来市の魅力を発信しているとのことでした。
また大溝地域ではまちづくり協議会が主体となって空き家活用に取り組んでおり、空き家の情報を管理し、移住者や空き家活用を希望する人とマッチングしているとのことでした。面白かったのは、ニーズに合わせた賃貸・購入のスタイルを選択できるという点で、いずれ解体することを前提にお安く賃貸する①解体まで賃貸タイプ、入居者が自らDIYして修理を行うことでお安く賃貸する②DIY型賃貸タイプ、建物を購入する人と使用する人が違う③購入者&運営者共創タイプを用意している点がとても面白いなと思いました。また移住者が地域にマッチする人なのかを判断するフィルターの役割を協議会が担っているといい、そうすることで地域と移住者のミスマッチを防ぎ、移住者を受け入れやすい環境を作っているとのことでした。
2日目は実際に大溝の町並みを楽しみながら、再生した古民家を視察しました。大溝の景観を語るうえで外せないのが町割り水路。その名の通り、城下町の町割りで作られた水路で、中町、西町、石垣町のそれぞれの通りにあります。昔は大溝のメインストリートである本町にもあったようですが、国道として整備されたことで暗渠化したそうです。かつては水路脇に階段を設置し、ここで洗い物などもしていたそうですが、今は雪を解かすのに使われているとのこと。またタチアガリという山から引いた水を浄化するための古式水道が現役で使われているなど、豊かな水を利用して暮らす大溝の景観を楽しみつつ、まちづくり協議会のマッチングで活用されている3物件を巡りました。
1軒目は、地元の建設会社が建物を借りて、自社の商談スペースとして活用している他、コワーキングスペースとコーヒーショップを併設している物件にお邪魔しました。コーヒーショップは建設会社とはまた違う方が経営されていて、ここは③の買い方に当たるそうです。ここでは株式会社澤村(SAWAMURA)代表取締役の澤村幸一郎さんから、空き家活用プロジェクトのコンセプトについて説明をしていただきました。もともとこの建物は自転車屋さんだったそうで、自転車の輪のように、人をつなぐ(輪になる)出会いの場にすることを目標に活用をデザインしたとのことで、今後その輪が広まっていくのではないかと感じました。2軒目はハンドメイドの洋服を販売しているお店で、元土木設計士というオーナーが自らDIYで改修した②に当たる物件でした。改修する際、もともと昭和チックだった建物を古民家風にリメイクしたとのことで、まちの雰囲気にもよく似合う素敵な建物でした。3軒目はまちづくり協議会の上田さんのお店で、日替わりで別のお店が入るシェアキッチンのような形で飲食店を経営されていました。改修も自分たちで行ったそうで、開放感のあるおしゃれな店内でお昼ご飯を頂きました。地元の醤油麹を使ったチキンや鮒ずしを添えたサラダなど、地元食材を使った創作料理はどれも本当に美味しかったです。このような空き家活用の成功事例が増えていくことで、ここで空き家を活用して何かをやりたい!と思う人が増え、さらに地域が元気になっていくのではないかと思います。
視察から戻り、班に分かれて空き家を活用の課題と解決法を考えるワークを行いました。私たちの班では、まず課題として空き家を把握できていない、行政内での連携が取れていない、空き家の所有者と連絡が取れないことなどが課題としてあがりました。そこで、空き家を見守るネットワークを行政と住民で作ること、所有者に家のエンディングノートを作成してもらうことなどが対策のアイデアとして出ました。他の班からはお試し移住を実施し、移住者と地域のミスマッチを防ぐとともに、地域が移住者と積極的にかかわる仕組みを作っておく必要があるのではないか、空き家活用の成功事例を作ること、そしてそれを伝えていくことが必要ではないかといった意見がありました。
今回の研修を通して、空き家活用の課題は全国共通であること、そのなかで官民連携で活用に取り組んでいる事例を学びました。尾道も高島も都市部と比較的近く、プレイヤーが参入しやすいという環境でもあるため、そこは四万十などの地方とは条件が違うなと感じましたが、今まで行政のなかだけで空き家活用を考えていたところを、住民や民間と連携しながら取り組むという新たな気づきを得られたことはとてもよかったです。