「物部川21世紀の森と水の会」が主催の講演会に参加してきました。講演されたのは、森林水文学がご専門の蔵治光一郎 先生(東京大学)。演題は「豪雨時代の森林管理~山が崩れる、川が埋もれる、水が危ない~」です。さて、どういったお話だったのでしょう。


まずは、蔵治先生が今回搭乗した飛行機から撮った高知県の皆伐跡地の写真を紹介してくださいました。「高知県も結構、皆伐が目立ちますね!」とコメントされていました。



全国で皆伐が目立ってきているのは、国の政策が関係しています。戦後の拡大造林によって植林されたスギやヒノキが伐期を迎え、国は林業を成長産業に位置づけ、皆伐を推進しようとしています。皆伐先発地になっている九州の状況を教えていただきました。

熊本県は人工林の方向性を上の写真のように位置付けています。24万haのうち7割を皆伐する予定なのだそうです。これには蔵治先生も心配されている様子でした。2020年7月には熊本県球磨川流域で69人の死者が出た豪雨災害があり、皆伐がその一因だとも指摘されています。

上の写真の縦軸は、森林に蓄積されている植林の材積量。横軸はそこからどれだけ伐りだされているか(素材生産量)を表しています。大分、熊本、宮崎は、材積量・素材生産量ともにも多いですね。皆伐後に再造林しているのは半分以下で、あとは放置のところも多いようです。高知県は、表の左上にあります。蓄積量は多いけど、割合的には素材生産量が少ないことを表しています。今後、国の方針のもと皆伐が進めば、九州のように右側に移っていく事になります。

上の衛星写真をみると、皆伐跡地(オレンジ色)が一目瞭然ですね。四国も九州のようになっていくのでしょうか.. .
皆伐の何が問題なのか。蔵治先生は、その一つとして作業道に起因する土砂崩れを指摘されていました。国は林業従事者の減少を補うため、大型の高性能林業機械に補助金を出し、生産性を上げようとしています。大型の機械を山林に入れるためには、大きな道が必要になります。切り盛りされて作られた大きな道の盛り土の部分が、豪雨により、下の写真のように崩れてしまうのです。





それから、侮れない影響が出ているのが、皆伐後にシカが草木を食べつくし、その歩いた跡が水の通り道になっている事だそうです。大きな土砂崩れにつながる事例も紹介してくださいました。



今後さらに増加が予想される皆伐施業ですが、私たちに何ができるのでしょうか。蔵治先生は「模範解答はない」としながらも、作業道による集材搬出を止め、タワーヤーダを使用した架線集材に切り替える事や、無関心にならないいこと、山に入る人を増やすこと、行政が状況をきちんと把握すること、環境にやさしい木材を使うことにより森とつながることなどヒントをくださいました。ありがとうございました!