私たちの生活に欠かせない水洗トイレ。コンビニや公衆トイレなど、町のあらゆるところにあって、とっても便利ですよね。でも、ひとたび町から離れると、意外とトイレに困ったことはありませんか?浄化槽の設置や水問題など、さまざまな理由で簡単に設置できない問題がありますが、今回はそんな課題を解消し、なおかつ環境にも優しい、エコな循環式水洗トイレ、「リサイくるん」をご紹介します。
循環式水洗トイレ「リサイくるん」


今回の清流通信では、「リサイくるん」を製造、設置している株式会社ダイドウの宮尻徳輝代表にお話しを伺った。「リサイくるん」とは、トイレで使った水を独自の処理システムで浄化し、再利用を繰り返す循環式のトイレだ。水は施設の中を循環するため排水もなく、下水道を通す必要もない。通常、台所やトイレなどで使った生活排水は、浄化槽で浄化されたのち、河川や海に排出されるが、その排水に含まれる窒素やリンで富栄養化が進み、水質の悪化につながることもある。排水しない「リサイくるん」は、河川の水質保全という観点からも、環境に優しいトイレだと言うことが出来る。
また、水の再利用を繰り返すため、常に新しい水を供給する必要がなく、水道整備がされていない場所に設置できるというのも強みだ。四万十川流域でも、河原や幹線道路から外れた場所にある公衆トイレなどは、所謂ぼっとんトイレであることも多く、水洗式に慣れている人には少し抵抗があったりするのではないかと思う(かく言う筆者もその一人)。水の供給が必要ない「リサイくるん」であれば、そういった場所でも、水洗トイレが設置できる。また、水道が遮断された災害時においても、衛生的な環境を提供し続けられるので、かなり画期的な仕組みなのではないかと感じる。
では、いったいどのような処理システムで浄化を行っているのだろうか。
「『リサイくるん』では、建物内に設置した3つの処理槽を使って汚水処理を行います。また可能な場合は、建物外に埋設型の処理施設を設置し、4段階で処理を行う場合もあります。まず、トイレで使った汚水は、埋設処理施設に送られ、そこで微生物による嫌気性処理・好気性処理を何度も繰り返し、ここで大まかに汚泥の分解を行います。一次処理槽で微生物が食べやすいサイズにするイメージです。次に建物内の一次処理槽にて、微生物を使ってさらに分解を進め浄化していきます。そして、二次処理槽で活性炭等を使って汚水をろ過し、三次処理槽で低濃度オゾン等を使って脱色・殺菌をしていきます。こうして浄化した水をトイレの水として再利用し、また浄化処理をする。このサイクルを循環させることで、衛生的で快適な水洗トイレを維持することができます。今も処理能力を上げるため試行錯誤を続けており、例えばイベント時など、たくさんの方が一気に利用される場合、浄化が追い付かない可能性もありますので、利用する方がいつでも気持ちよく使えるよう、今後もより進化させていきたいと考えています。」
「リサイくるん」のすごさは、循環式システムだけではない。建物内に収蔵された処理槽がトイレと直接接続されているため、配管工事も必要ないうえに、基礎だけ作ってしまえば、その上に設置するだけでできてしまう。また、驚きなのはそのコンパクトさ。可搬型ユニット(1ユニットタイプ)の場合、建物の大きさは縦4m×横2.3m×高さ3mなので、平地が少ない場所でも設置することができる。さらに、1台のトラックで運搬でき、トラックから降ろすだけで設置できる施工の手軽さもある。このコンパクトさを実現しているのは、ダイドウさんの開発努力に他ならない。



日本の大工の技術を活かす
循環式システムだけでなく、清潔感のある外観・内装のきれいさも特徴の一つだ。「リサイくるん」にはさまざまなタイプがあるが、多くのタイプが木材をふんだんに使った日本建築スタイルのデザインになっている。木工、板金、塗装、左官に至るまで、日本の職人の技術を活かした施工を行い、高知県産の木材を使用するこだわりよう。自然豊かな風景によく溶け込み、景観を邪魔しないデザインになっているうえ、中に入ると、木の優しい良い香りとあたたかな木の色が、居心地のいい空間を作り出している。

「プレハブの建物にすると、どうしても仮設トイレっぽくなってしまいますし、私の母がもともと自然が好きで、当初から見た目も自然に優しいものを作りたいと考えていました。また高知県はスギ、ヒノキなどの木材が潤沢にありますし、それを使うことで地産地消に貢献したい、加えて、日本の建築を支えてきた大工さんの技術を活かし、技術の継承につなげたいという思いから、木材を使用した日本建築風の外観に仕上げています。また、鉄骨に比べて木材は軽いという特徴があります。わたしたちは可搬タイプも製造しておりますが、木材で作った建物は軽くて動かしやすいというメリットもあります。何より、木材は温かみがありますし、そのほうが利用者さんも気持ちよくご利用になれると思いますので、そこはこだわっているところですね。」
高知県は林業が盛んで、四万十ヒノキや魚梁瀬杉など、古くから良質な木材を輩出してきた歴史がある。しかし、木材の需要が減少し、価値も下がったことで、林業も徐々に衰退し、放置された山が荒廃しつつある。豊かな水と適度な土砂を供給する山は、豊かな川にとって必要不可欠だが、人が手を入れなくなった山は、本来の機能が発揮できず、川にも影響を及ぼしている。県産材を使うのはそのぶんコストもかかるのではないかと思うが、それでも積極的に活用するダイドウさんのスタイルは、木材の利用促進につながり、森林の適切な伐採、管理につながると思う。またそれによって利用者にとっても居心地のいい空間が作りだされているのは、とても素晴らしいサイクルだと感じた。「リサイくるん」は究極のエコなトイレではないだろうか。
開発の経緯
排水もせず水道整備も必要ない、環境にとても優しい「リサイくるん」だが、開発のきっかけは、意外にも環境面への配慮ではなかったという。発案は、徳輝代表のお母さまの千恵子さん。千恵子さんは、阪神淡路大震災の際のトイレ不足を耳にし、災害時のトイレ対策の必要性を考えるようになったそうだ。2011年の東日本大震災でも深刻なトイレ問題を現地で目の当たりにし、南海トラフ地震の被害が予想されるなかで、災害用トイレの開発が急務だと感じたことから、取り組みが始まった。
「東日本大震災の翌年、高知県の防災関連製品(技術含む)の「地産」・「地消」・「外商」に向けた展開として、製品開発にかかる支援制度が始まり、県からの補助も活用しながら、循環式トイレの開発に取り組みました。私自身、大学で微生物による循環システムの研究に取り組んでいたこともあり、それをベースに試行錯誤しながら開発に勤しみました。災害時でのトイレ対策として、低コストで設置できることから仮設トイレなどがよく採用され、どうしてもその面では導入されづらいところもありますが、循環式トイレは環境に配慮した仕組みが強みですので、その視点での広報活動にも力を入れているところです。おかげさまで、現在は環境面での高い評価もいただいており、アウトドア施設からも導入のご相談をいただいています。」
簡易トイレなどの対策もあるが、水洗トイレに慣れている現代人にとって、断水時のトイレ問題は深刻だろう。衛生面や臭いなど、使用にあたってのストレスが取り除けないところはあると思う。その点、浄化した水を循環して使える「リサイくるん」であれば、通常の水洗トイレと同じように使えるため、そういったストレスも軽減できるのではないだろうか。近いうちに南海トラフ地震が発生すると言われるなかで、循環式トイレの導入が各地で進めばいいと思う。一方で、HPに掲載されている施工例を見ると、現在は学校関係の他、河川沿いや山間部での設置が多く、水が取りづらい、または環境への配慮から「リサイくるん」を導入している事例も多いようだった。なかには、四万十川流域での施工事例もいくつかある。

四万十川流域にも「リサイくるん」
現在、四万十川流域では、梼原町の学校グラウンド、中土佐町大野見の高樋沈下橋、四万十町の三堰キャンプ場に「リサイくるん」が設置されている。高樋沈下橋も三堰キャンプ場も、シーズン中は多くの観光客が訪れる観光スポットだが、高樋沈下橋にはもともとトイレがなく、三堰キャンプ場は、トイレはあるにはあったが、長らく使用不可の状態となっていた。コンビニも少なく、トイレ設備が十分にあるわけではない四万十川流域において、この2つのトイレは観光客だけでなく、地元民にとっても喜ばれていることだろう。トイレの個室内にはリサイくるんの簡単な説明板も設置されており、環境に優しい循環式トイレであることが紹介されている。四万十川沿いに設置された環境に優しいトイレということで、利用者が四万十川の保全や環境への関心を持つひとつのきっかけになってくれると思う。


「基礎さえ作れば、あとは建物を置いているだけなので、地盤の安定しない場所、例えばキャンプ場や河川敷、山間部でも設置することが出来ます。実は、仁淀川流域の河川敷にもリサイくるんを設置していただいており、可搬型なので、増水の危険性がある際には、事前に連絡をいただければ重機でトイレを避難させることも可能です。自然を活かしたレジャーは、高知県の観光資源ですし、今後もそういった場所で使っていただけるようにしていきたいと思います。また、お遍路さんと絡めて、県内だけでなく四国内でも展開していけるようにしていきたいですね。1つ1つ丁寧に仕事を行い、地元の方々に喜んでいただけることを地道に続けながら、少しずつ事業を大きくしていければいいなと考えています。」

定期的に大水が出る四万十川において、河原やキャンプ場への清潔なトイレの設置は大きな課題だった。「リサイくるん」はそんな四万十川にうってつけだと思う。現在あるトイレのなかには老朽化しているものもあるため、改修する際には「リサイくるん」が選択肢の一つになればいいと思う。「リサイくるん」は川にも人にも優しいトイレであることは間違いない。流域でもこのトイレの導入がさらに進んでいくことを期待したい。