芝 一夫(しば かずお)

芝 一夫さんの基本情報

・旧西土佐村・津野川地区出身

・5人姉弟の長男。作家・笹山 久三氏のお兄様。笹山久三さんの小説「四万十川」で“和夫兄ちゃん”として登場。同小説は映画「四万十川」の原作にもなり、樋口可南子氏や小林薫氏など有名俳優が出演。

・めちゃめちゃ働き者の農家さん。少し離れた津賀地区の畑にいる事が多い。今回の取材も雨の日を選んでお伺いしたが、「作業しながらでもかまんか?」とやる気満々!過去には栗の生産量で高知県1位になった事も。

作業しながらインタビューに応える一夫さん

・西部漁協組合組合員・元理事

夢のお告げで始まった芝商店 

一夫さんのお父さんは肺結核で片肺を切除し、あまり重労働が出来なかったそうだ。「5人の子どもがおるわけやけんにゃ、どうやって食うていくか一家のピンチやんか!」と一夫さん。ある日、それを心配してか、亡くなったお祖父さんが夢枕に立ち、『ここで商売をせれ!』とお告げが下り、始まったのが芝商店なのだという。「ホントの話ながぞ!」と力説する。

芝商店のすぐ下を流れる津野川。一つのコロバシに20匹も入る事があったそうだ。

上手くいく確証もないまま、商店を開くことになった。まずは、資金調達からだ。みんなで「コロバシ」を浸けて、ウナギを獲ったそうだ。当時はたくさんいて、一晩に4kg獲れる事もあったそう。ここまでが子ども達の役目。ここからがお母さんの出番。そのウナギを生きたまま魚籠(びく)に入れて、蒸気機関車で2時間ほどかかる愛媛県宇和島市へ持って行きお金に換え、てんぷら、かまぼこ、ちくわなどの食品を大量に仕入れた。それらは、炭焼きや薪を作っていた山師が山で食べる食料として、5人の子どもが養えるほどドンドン売れたそうだ。一夫さんは「これが、俺らぁの渡世よ!」と語る。

一夫さんのハコウエ

昭和38年台風9号で大ピンチ!一夜城ならぬ「三日城」で再建

昭和38年台風9号の進路図

ピンチもあった。「道路沿いの見えちょる家はみな浸かった!」という昭和38年の台風9号。四万十川流域いたるところで大きな被害が出た、流域では誰もが記憶している台風だ。四万十川がどんどん増水し、芝商店のすぐ下を流れる津野川が逆流したという。まるで津波だった。いわゆるバックウォーターという現象である。当時の記録によると、西土佐地区は“1時間で2m上昇し、最高水位は20mに達した”とある。

一夫さんは「家は屋根まで浸かったら浮くぞ!」と言う。芝商店は屋根まで浸かり、上流に向かって流されていたそうだ。それを一夫さんが泳いで追いかけて、家の梁にワイヤーを括り付けて、裏山の柿の木に流されないように固定したそうだ。「そんなことが出来るがはオレしかおらんかった!」という一夫さんは当時中学3年生。なんとも逞しい。

しばらくして水が引く頃には、家族総出でワイヤーを引っ張り、元の場所に戻そうとした。お父さんが「だいたいこんなもんじゃないか!?」と言って置いたところが、惜しくも元々あった場所と20㎝ずれていたそうだ。たった20㎝だが、突き固めていない軟弱な地盤に柱を建てても家は傾いてしまうということで、解体することになった。

昔の家は、木材と木材を固定している継ぎ手や仕口の「込み栓」さえ抜けば簡単に解体することができ、元通りに組み立てることも出来る。「隣近所に大工の心得があった人がいて、その人の指導で隣近所や親せきが集まって、みんなで3日で立て直した。」そして4日目には、荷揚げしていた品物を全部降ろしてきて商売を再開したというから驚く。「すごい事やろ?豊臣秀吉は一夜城やけんど、俺らぁは三日城よ!みんなの力はすごいでぇ!」と一夫さん。

この大洪水で家が浮いたことを直に経験した一夫さんの現在のご自宅は、洪水が来ても家が流されないように頑丈なコンクリートの基礎に緊結した鉄筋の家を建てている。

現在のご自宅。洪水が来ても流されないように鉄筋で建てられている。

臨機応変な働き者

一夫さんの印象は、働き者で、状況に応じて的確に行動できる人。人口が減っていく中、近所に大きなスーパーが出来始めると「商売ではいかんぞ!」と芝商店の役目を終える。そして「西土佐中が作りよった!」という栗で生計を立て始める。最盛期は5haの栗林を経営し、年間100tもの栗を生産、これは高知県では1番の生産量だったそうだ。

しかし、良い時もあれば悪い時もあるのが人生。栗の炭疽病の蔓延や韓国産の栗が流通し始め、買取価格が3分の1に減少。ここでも一夫さんは的確な判断で、米ナスの生産に切り替える。米ナスは現在、息子さんが引き継がれている。一夫さんは現在、ナバナやインゲン、シシトウを作られているそうだ。

ワサビの出荷作業

取材日は雨で、室内でワサビの出荷作業をされていた。実は、これは「拾い物」だそうだ。ワサビを栽培しているのは一夫さんではなく息子さん。練りワサビの原料になるらしい。息子さんが出荷しない部分を拾ってきて、その美味しいところだけを包丁で切り分けながら、丁寧に包装し出荷している。よく売れているようだ。一夫さんは「ええものを見つけた!」と嬉しそう。

一夫さんの警鐘

そんな一夫さんが懸念していることがある。「四万十川にアユがおらんなった。終いには絶えるぞ!じわーっと来よる!仁淀川にならって四万十川も火振り漁を1代限りにして制限すべき。他の方法でもかまん。四万十川全体で取り組むべき。」と警鐘を鳴らす。

一夫さんは昨年のリバーマスターの勉強会でも同じ意見を述べられた。長年多くの河川に関わってきた専門家・高橋勇夫先生からも、その返答として「不漁が起こる度に、いろいろ議論はされるが、四万十川だけが具体的対策に動かない。一時的な対策はやるけど、恒久的な対策にはまったく出てこない。それが四万十川の最大の弱さ。」と指摘されていた。後世に自信をもって残せる四万十川にしていきたい。

芝一家がモデルになった映画「四万十川」

弟さんの笹山 久三氏の小説「四万十川」は映画化され、一夫さんも“和夫兄ちゃん”として登場されています。昭和30年代の暮らしの様子や川との密接な関りがよく分かって必見です!ぜひご覧ください。

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小説も河出書房新社から出ています。全6部。こちらも必読です。出版社のサイトでは品切れの巻もありますが、財団事務所にもあるので、読みたい方、お貸ししますよ。