自然の本質は多様性にあります。四万十川はその源流域から河口に至る間に、非常にバリエーションに豊んだ自然の姿を見せてくれます。カルスト台地から河口堆積層に至る地質、ブナ-ササの冷温帯林からヤナギ林までの植生、100種を越える魚種や豊富な鳥獣類・昆虫類などの生物相と、自然環境の多様さ豊富さは全国でも類を見ないものです。
四万十川流域はプレートの沈み込みにより大陸側に付加された地層域で、中流では穿入蛇行による特徴的な曲流がみられます。本支流域上流には天然林が残されており保安林や生活環境保全林として保護されています。
四万十川流域の地層は仏像構造線を挟んで北東部の秩父帯と南西部の四万十帯に分けられます。秩父帯には古生代シルル紀から中世ジュラ紀までの地層が分布しています。四万十川に因んで名づけられた四万十帯は、白亜紀の地層が分布している北帯と第三紀の地層が分布している南帯に分けられます。四万十川流域の地層は砂岩・泥岩の地層を中心としており、プレートの沈み込みによって次々と大陸側に付加されて形づくられた地層であると考えられています。四万十帯や秩父帯に見られる石灰岩や緑色岩、チャートなどは南からプレートに乗って運ばれて来た異地性の岩体だと考えられています。
四万十川周辺で見られる地質としては、地芳峠から天狗高原にかけての四国カルスト、津野町(旧東津野村)の断層線崖、津野町から矢筈峠へ抜ける船戸林道の仏像構造線、檮原町大蔵谷の層状チャート、檮原町六丁赤岩橋下の赤色チャート、四万十市西土佐若葉橋登山道の花崗岩の滝、黒尊川トドロ遊歩道のホルンフェルスと甌穴、四万十市中村間崎の枕状溶岩などがあげられます。
高知県と愛媛県の県境に沿った標高約1000~1400mの山地に東西約1.5kmにわたって断続的に分布する石灰岩の台地を四国カルストといいます。石灰岩が長い年月の間に侵食されてできるカルスト地形は地芳峠から天狗高原につながる高原道路沿いで顕著で、羊が群れたように見えるカッレンフェルトや、雨の染み込む割れ目が拡がり、すり鉢状の地形となったドリーネが見られます。四国カルストの石灰岩は下位に緑色岩が見られることから海底火山の上にできた造礁サンゴであり、含まれるサンゴやフズリナの化石から形成期は古生代の二畳紀であることがわかっています。
黒尊川源流域に残る約300haの自然林で暖温帯林。春の新緑、秋の紅葉が美しく樹齢200年を越えるモミ・ツガの針葉樹にヒメシャラ・コハウチワカエデ、ブナなどの広葉樹が混生しています。
四万十町(旧十和村久保谷川)上流の国有林で、日本最古と認定された複層林があります。複層林とは樹冠の層が2段以上で構成されている森林で、藩政期(1811)以来の複層林は学術的にも貴重なものとされています。
檮原町久保谷川上流から四万十町(旧窪川町)松葉川へ越える春分峠付近の約100haの国有林。モミ・ツガ・ヒノキの巨木が残る数少ない地域で、中には樹齢300年を越える木もあります。生息する鳥獣の数も多い自然の森。
中土佐町(旧竹原川上流)。樹齢180年を超えるモミ・ツガなどの針葉樹とイロハカエデ・ウラジロガシなどの広葉樹の混生した林相が見られます。
四万十町(旧大正町葛籠川)の源流の一つ、一の又渓谷上流のスギ・ヒノキ植林域に残された53haの原生林。モミ、ツガ、イスノキ、サカキなどの暖温帯林で、樹高30mを超すツガの巨木など巨幹の並ぶ見事な森林が見られます。
四万十町(旧十和久保谷川)上流。古屋山のアカマツ林では樹高20m~30m、直径60~80cmの赤銅色の巨木がみられます。南西部に隣接するモミ・ツガ林の梶ヶ谷モミ天然生林保護林と共に学術参考保護林となっています。
天狗の森は高知県津野町・仁淀川町・愛媛県久万高原町の3町境にある四国カルストの最高峰で標高は1485m。四国カルストの尾根筋に建つ国民宿舎天狗荘から瀬戸見の森にかけて各種の散策コースが設けられています。
保安林は森林の公的機能を発揮させることを目的とした森林で、水源かん養保安林・土砂流出防備保安林・土砂崩壊防備保安林などがあり、流域の民有林では2,900haが指定されています。生活環境保護林は自然を重視し、活用して県民の保健休養に役立てようとする林です。
四万十川流域市町村の代表的な古木・巨木
旧東津野村/寺山の大イチョウ・土居越の大藤 旧大野見村/竹原の梅 旧窪川町/影野のお雪椿・仁井田のヒロハチシャノキ 旧十和村/地吉の夫婦杉・大道の五葉の松 旧中村市/竹屋敷の藤・生ノ川のタチバナ